昭和を代表する大衆小説家である源氏鶏太は、晩年のエッセイ『わたしの人生案内』(中公文庫)にこう書いている。
とにかく、ユーモアのない一日は、極めて寂しい一日になることは間違いなかろう。>(「ユーモアのない一日」より)
この文章が説得力を感じさせるのは、高度経済成長期にサラリーマンを主人公とした幾多のユーモア小説を残してきた人物の著述だからかもしれない。
そして、これが何十年もの間ずっと頭の片隅に残っていたからこそ、『ユーモアは最強の武器である: スタンフォード大学ビジネススクール人気講義』(ジェニファー・アーカー、ナオミ・バグドナス 著、神崎朗子 訳、東洋経済新報社)を手にしたときにも、そのタイトルにピンときたのである。
源氏は「私のユーモアとは、『何んとなくうら悲しくて、おかしいことである』と、いうことである」とも記しているのだが、ここに「最強の武器」としての機能を加えることもできるのだ。
ユーモアはフレキシブルで重要なツール
つまり、「ネタ」のようにしか見えないユーモアは、実のところフレキシブルで重要なツールなのである。
たとえば、人間関係にありがちな誤解に基づくトラブルさえ、ユーモアによって乗り越えられる可能性がある。あるいは精神的に追い込まれているとき、意図してバカバカしいことを考えてみれば、余計な力がスッと抜けていくかもしれない。つまりユーモアのセンスを持っていれば、なにかと人間らしく生きていくことができるということだ。
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