「世界が透けて見えるメガネ」物理を学ぶ楽しさ 中学・高校の物理は人生を「知的リッチ」にする

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ここで、物理の全体像を知ってもらうためにも相対性理論がどのような感じの学問なのかという話を少しだけしておきたいと思います。

相対性理論が扱うのは大きいか速いか極端な世界です。

「光より速く走れたら景色はどう見えるんだろう?」とか、「惑星ってどう動くのか?」とか、「宇宙の果てはどうなっているのか?」とか。

そういうスケールの大きな世界を扱うのが相対性理論で、この分野を確立したのが有名なアインシュタイン。こちらも量子力学同様、従来の力学で解明されていたモノのコトワリだけでは説明のつかない世界であることがわかったんです。

相対性理論が従来の力学と明らかに発想が異なるのは、「時間」というものを人間から独立したものとして考えるのではなく、私たちの動きの中に組み込んでしまったことです。簡単にいうと、時間の進み方は一定ではなく、速く動くと時間はゆっくりになることを証明しました。

たとえば、飛行機に乗ると、ほんのわずかですが時間がゆっくり流れるということを証明した実験もあります。

その理屈に従えば、宇宙船などに乗って超高速で移動して、数年後に地球に帰ってくれば、宇宙船の中だけ時間の進み具合が遅いので、未来に行けるんです。これはSFでもなんでもなく、未来に行けることはわかっています。

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ただし、過去に戻れないこともわかっています。なのでドラえもんみたいなタイムトラベルはできない。これが物理の世界の常識です。

また、相対性理論は最先端の研究だけではなく、身近なところでも活用されています。

たとえばカーナビのGPSは思いっ切り相対性理論を使っています。GPSとは、人工衛星から発せられる電波を元に位置を計算する仕組みですが、もしGPSをニュートン力学で計算すると、今ごろ私はギリシャあたりにいることになってしまうかもしれない。なぜズレるのか、どれくらいズレるのか、全て解明されています。

また、よく特殊相対性理論と一般相対性理論といいますよね。歴史的に最初に特殊ができて、その後により一般化されたのですが、両方合わせて相対性理論と言っていることが多いです。その中身の一覧だけ紹介して相対性理論の説明は終わりにしましょう。

★特殊相対性理論
・光より速く動けるものはない
・高速で動くものの中では時間の進み方が遅くなる
・高速で動くものは縮んで見える
・質量とエネルギーは等価である
☆一般相対性理論
・重力が強いものの周辺では空間が歪む
・重力が強いと時間の進み方が遅くなる

いかがでしょう。物理は、言ってみれば「世界が透けて見えるメガネ」です。

中学、高校で習う物理の基礎知識は、実はとても人生に役立ちますし、その後の人生が「知的リッチ」になると思います。とっつきにくい学問と避けず、ぜひ大人も子どもも楽しく学んでみてください。

西成 活裕 東京大学先端科学技術研究センター教授

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にしなり かつひろ / Katsuhiro Nishinari

専門は数理物理学、渋滞学。1967年、東京都生まれ。東京大学工学部卒業、同大大学院工学研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。その後、ドイツのケルン大学理論物理学研究所などを経て現在に至る。予備校講師のアルバイトをしていた経験から「わかりやすく教えること」を得意とし、中高生から主婦まで幅広い層に数学や物理を教えており、小学生に微積分の概念を理解してもらったこともある。著書『渋滞学』(新潮社)で、講談社科学出版賞などを受賞。ほかに『とんでもなく役に立つ数学』『とんでもなくおもしろい仕事に役立つ数学』(KADOKAWA)、『東大人気教授が教える 思考体力を鍛える』(あさ出版)など、著書多数。

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