和田秀樹「みんなでボケれば何も怖いことはない」 認知症を恐れすぎず、飼い慣らしながら老いる

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私は高齢者専門の病院に長く勤務して数多くの解剖結果を見てきましたが、85歳以上の高齢者で脳にアルツハイマー型認知症の変性(神経原線維変化や老人斑)がない人はいませんでした。つまり老化現象として脳の変性は避けられません。あとは症状が現れるか、現れないかの違いだけです。

「いずれはボケるとしても、85歳までは逃げ切りたいものだな」

逃げ切りましょう。ボケても少しぐらいなら自分で気がつかないときもありますから、90代でもニコニコしていれば周囲は気がつきません。「覚えてないの」と言われたら「認知症かな?」ととぼけ、覚えていることは「わかった、わかった」と言われるまで説明してあげましょう。結局、認知症なのか正常なのかウヤムヤのままに逃げ切ることができます。

「なったらどうしよう」という不安が認知症の大敵

たとえ認知症の症状が現れたとしても、いきなり家族の顔もわからなくなるようなことはありません。よく「キャッシュカードも使えなくなる」と心配する人がいますが、暗証番号を忘れるようなことはかなり症状が進んだ状態でなければ起こりません。

もちろんもの忘れは認知症の初期のころでも起こります。同時にもの忘れは誰にでもあります。

認知症のテストで最初に「桜、電車、鉛筆」とか3つの言葉を言われて「あとで質問しますから答えてください」というのがありますね。その後いろいろ質問されて、しばらく経ってから「3つの言葉は何でしたか」と聞かれれば「えーと」と答えたきり考え込む経験はたいていの人にあるはずです。ひとつは思い出せても残りが出てこないなんてザラにあることです。

それで日常生活に不便を感じたり支障があるかと言えばとくにありません。「さっき何か頼まれたけど何だっけ?」と思ったら「もう一回言ってくれ」で済むのです。

学者や弁護士のような知的な職業に就いている人でも、じつは認知症だったということがあります。自分の専門領域のことや過去から積み重ねて学習してきたことは忘れないからです。

政治家でも認知症だったと後でわかったケースがあります。たとえばロナルド・レーガン元アメリカ大統領は退任して5年後に自らのアルツハイマー病を告白しましたが、そのときのとんちんかんな症状を見る限り、大統領在任中にすでに記憶障害くらいは発症していたと思われます。初期のころならアルツハイマー病でも大統領が務まるのです。「記憶にございません」を連発する日本の政治家だって、あとで認知症がわかって「ああ、やっぱり」ということになるかもしれません。

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