和田秀樹「みんなでボケれば何も怖いことはない」 認知症を恐れすぎず、飼い慣らしながら老いる

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ただ私は、MCIの段階で「ああ、このまま認知症になってしまうのか」という悲観的な考え方や不安に捕まってしまうことがいちばんまずいと思っています。気持ちまで落ち込んでしまったら、どんな意欲もわいてこないからです。

たとえばちょっとしたもの忘れを繰り返すと、家族に「大丈夫なの?」とか「検査受けたほうがいいんじゃないの」と心配されます。すると腹が立ってきます。「ただのもの忘れぐらいでうるさい」とか「ボケ扱いするな」という気になります。

すると今度は無口になってきます。うっかり何かしゃべって「さっきも話したでしょ」とか「もう忘れたの」とバカにされるくらいなら黙っていようという気持ちになるからです。

不安に捕まって無口になったら、脳はもう何の刺激も受けないし、周囲への興味も好奇心も失ってしまいます。感情が動かされることもないのですから、前頭葉の老化はますます進んでしまいます。つまりMCIというのは、それを本人がどう受け止めるかで認知症に進んでしまう可能性が一気に高まってしまうのです。

老いて大切なのは愉快な人間関係

歳を取れば認知症は避けられない。でもゆっくりとしか進行しない。

このふたつの原則を受け入れれば、MCIへの向き合い方もわかってきます。「なったらそのときのこと」と開き直るしかありません。開き直って同世代のMCI、つまり家族からボケ扱いされている老人同士で遠慮も気遣いも要らない大らかな人間関係を作っていくことです。

名前が出てこない、同じ話を繰り返す、「ほら、アレだよアレ」「ああ、そうかアレだったな」でも会話は進み、お互いにあきれて笑い合う、名前なんか出てこなくても言いたいことはわかるのですから会話は進みます。

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そういう屈託のない同世代の人間関係を楽しんでください。大事なのは気持ちを朗らかにしておしゃべりを楽しむことです。昔話ならいくらでも出てきます。

会話は相手の話を受け止め、自分の感情や考えを言葉にするやり取りですから、記憶の掘り起こしと表現のトレーニングになります。トレーニングなんて面倒なことですが、要は気分が浮き立って感情発散できればいいのです。

でもそれだけのことでも前頭葉は刺激されます。笑い声を上げながら認知症予防ができるならありがたいことです。たとえいつものおしゃべり仲間がそのまま全員、認知症になってもお互いに気がつきません。

みんなでボケれば何も怖いことはありませんし、萎縮することもありません。朗らかな認知症、愛されるボケという高齢期はそれなりに穏やかな人生の締めくくりになってくると思います。

和田 秀樹 精神科医

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わだ ひでき / Hideki Wada

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、現在は和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書)、『老いたら好きに生きる』(毎日新聞出版)など著書多数。

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