実際には、製造業の設備稼働率でみると、製造業全体の供給余力は依然残っている。企業によっては海外への直接投資を増やす企業も多いが、現行の国内生産体制においても、輸出需要拡大に応じて、日本からの輸出は伸ばせる状況にあったということだろう。そもそも本当に供給制約の状況にあるならば、インフレ率の伸びは減速しないだろう。
円高是正で、設備投資増や観光需要増に期待
さらに、2012年末からの円安で、ドル円が「正常水準」に戻ったことで、一部製造業では国内の工場を増設する動きもみられている。
現在は供給力が十分としても、将来拡大する海外需要を取り込むための生産拡大を見据え、これまで抑制してきた国内設備投資を増やし始める動きが今後顕在化するとみられる。アベノミクス発動による金融政策の転換によって、過度の円高への恐怖が払しょくされたことが、日本企業の設備投資拡大を後押しするわけだ。
なお、円安によって海外からの日本を訪れる観光客が爆発的に増えている。日本銀行による金融緩和の不徹底が主因と考えられる長期円高によって、他の先進国と比べて日本では潜在的な外国人向け観光需要が抑制されてきたが、円高への恐怖が払しょくされて、観光業の規模が大きく伸びている。先の製造業の国内回帰と同様に、観光業サービスの拡大を通じた、国内投資や雇用拡大が期待できる。
金融緩和の効果が浸透することで、輸出を増やすだけではなく、国内回帰や観光産業などサービス産業を含めた幅広い企業による投資拡大を後押しすることで、総需要が底上げされ、2015年のGDP成長率が押し上げられる可能性が高まっている。
そして、企業による設備投資などの拡大は、民間企業を通じた供給サイド(潜在成長率)を押し上げる面があることを意味する。アベノミクスの第3の矢である成長戦略は、経済の供給側を強化する政策対応だが、これは主にTPP参加による関税削減や規制ルールの見直しが主たるメニューである。
これらの地道な政策対応は必要だが、金融緩和によって、総需要の一部である民間企業の投資拡大を通じて、日本経済の供給側の成長力を高める経路も十分想定できる。効果の計測が難しい規制緩和よりも、金融緩和の波及効果が浸透することで、確度が高い供給側の強化が十分可能ではないかと筆者は考えている。
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