意外に知らないがん治療「最前線の大変化」が凄い 医療の精密化で増える選択肢、患者が迷う場合も

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大腸がん、肺がん、胃がんなどと、がんができている「臓器別」に診療科が決まるのが一般的ですが、最近は、「遺伝子別」にがんを分類し、治療する流れが加速しています。

とくに肺がん領域では、治療を進めるうえで、自身の遺伝子のタイプを調べることが欠かせなくなっています。「プレシジョン・メディシン(精密医療)」が最も進む領域だからです。

次の表をご覧ください。

●肺がんの検査と治療薬の選択(非小細胞肺がんステージ4の場合)

肺がんの検査と治療薬の選択

EGFR、ALK、ROS1……と英文字で表されているのが、がんを引き起こす遺伝子の型です。日本人に発生頻度が高い「肺腺がん」では、がんの原因になる遺伝子異常が十数種類見つかり、対応する薬剤が次々と開発されています。

患者さんの遺伝子の型を1つひとつ別々の検査に出して調べているのでは追いつかず、「がん遺伝子パネル検査」(この場合は、承認薬の適応があるかどうかを判断する診断用の検査として使う)を用いて複数の遺伝子を1つのパネル上で一度に調べる方法に切り替わってきました。

患者さん特有の遺伝子異常が見つかり、対応する薬剤が存在すれば、がんの“アキレス腱”ともいえるがん細胞の増殖や生存に必須となる分子を狙い撃ちにする「分子標的薬」で治療します。分子標的薬が数多く使われるようになり、どのタイプのがんなのかを見分けたうえで効果的にターゲットを叩けるようになりつつあります。

遺伝子情報に基づく治療の「空白」はどのくらいある?

がんに関連する遺伝子は数百種類と見られていますが、明らかに診断や治療に関連することが確認されている遺伝子となると、現時点ではまだ数十種類とごく限られています。遺伝子情報に基づく治療の「空白」は、今、どのぐらい埋まってきたのでしょうか。

以下の表は、一部のがん種をピックアップしたもので、横の列ががん種を、縦の列が遺伝子変異(もしくは、治療薬が効くかどうかの目印となる「バイオマーカー」)を表しています。「承認」と書かれたマスのがん種には遺伝子変異に応じた治療薬があり、日本で承認されていることを意味します。

遺伝子変異別の治療と治療薬の有無

この表の原型を作成した国立がん研究センター東病院消化管内科の中村能章(なかむら・よしあき)医師は、「文字の書かれていないマスは、精密医療の『空白』になっているところ」だと解説します。

中村医師がこの資料を最初に作成した2020年の時点では、まだ大腸がん領域の「HER2」や「BRAF」に対応する薬は承認されていませんでした。

また、縦の列では右の2つが全がん種で承認されていますが、「MSI-H」に対応する免疫チェックポイント阻害薬の「キイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)」が日本で承認されたのが2018年、「NTRK」に対応する分子標的薬の「ロズリートレク(同エヌトレクチニブ)」が2019年、「ヴァイトラックビ(同ラロトレクチニブ硫酸塩)」が2021年と、いずれも、空白が埋まったのはごく最近のことです。

「『がんになるのが5年、10年遅ければ』などといわれることがありますが、消化器がんでは、2010年から2020年に承認されたバイオマーカーに対応する分子標的薬の数と、2020年から2022年に承認された数は、同じぐらいなんです。ここ2~3年で、爆発的に抗がん剤の新薬が増えてきています」

と中村医師が言うように、ここ数年のがん医療の進展は目覚ましいものがあり、取材する私自身も驚きました。

ただ、患者側の視点で見れば、「どのマスに自分が当てはまるか」で明暗が分かれると感じる人もいることでしょう。医療がもっと“精密”になって治療の選択肢が増えていけば、患者さんにとって「明」の部分、つまり自分に合う治療にたどり着ける可能性が増えていきます。

次ページ治療の選択肢が増える中で生まれる課題
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