意外に知らないがん治療「最前線の大変化」が凄い 医療の精密化で増える選択肢、患者が迷う場合も

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北風さんは、全摘すれば部分摘出よりも局所再発率が下がるというエビデンスをもとに、病変がある側の全摘手術を選びました。

一方で、術後にホルモン剤治療を5年以上続ける予防治療を受けるかどうかを判断する際は、医師からさまざまな情報を提供してもらい、自分の検査結果と照らし、ホルモン剤治療を受けない選択をしました。

「最近は、患者自身が情報を知ったうえで治療を決める『インフォームド・チョイス』が推奨されていますが、その選択は、当事者にとっては重いもの。それぞれの選択肢には一長一短があり、自分で決めるのはなかなか難しいものです」

医師と患者のギャップを埋める「メモの取り方」の工夫

治療方針を決める際、持っている情報の量に圧倒的な差がある医師と患者のギャップを埋めるために、どんな工夫があるとよいのでしょうか。

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北風さんは、メモの取り方の工夫を挙げます。忙しい大病院の場合、診察で自分だけがあまりにも長い時間を取るのは気が引けるため、短い時間でメモを取るための準備をして診察に臨んだといいます。

「診察時に医師から数字を聞いてメモをしても、それが何の数字だったのかが後でわからなくならないように、私はあらかじめ質問メモに数字を書き込む空欄をつくっておきました。

とくに手術の方法を決めるうえで知りたかったのは、部分摘出をしたときの局所再発(病気があった乳房内での再発)の確率と、全摘手術と部分摘出した場合の生存率の違い。紙に書いた質問を診療時に尋ね、医師から回答があった数字をその空欄に書き込むだけでよいようにしておいたのです」

がん医療が精密になり情報が増えても、情報の洪水に溺れることのないよう、患者なりにできる工夫がある――。いくつもの治療選択をくぐり抜けるがん経験者の声には、多くの学びがあります。

古川 雅子 ジャーナリスト

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ふるかわ まさこ / Masako Furukawa

栃木県出身。上智大学文学部卒業。テクノロジー・ビジネス誌、ニュース週刊誌で専属記者を経て独立。「いのち」に向き合う人々をテーマとし、病や障がいを抱える当事者、医療・介護の従事者、科学と社会の接点で活躍するイノベーターたちの姿を追う。ニュース週刊誌「AERA(アエラ)」人物ノンフィクション「現代の肖像」執筆多数。著書に『きょうだいリスク』(社会学者・平山亮との共著、朝日新書)

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