意外に知らないがん治療「最前線の大変化」が凄い 医療の精密化で増える選択肢、患者が迷う場合も

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一方、治療の選択肢が増える中で、新たな課題も生まれてきました。数字で示される統計データが増え、複数の治療法のどちらを選択すべきか、迷いが生じるケースも出てきたのです。

例えば、効果が100%でデメリットが0%の治療であれば、誰もが迷わずにそれを選ぶことができます。けれども下記のような場合はどうでしょうか。2つの選択肢を挙げてみましょう。

・Aの治療を選ぶと、効果は80%。副作用が強く出る割合が70%。

・Bの治療を選ぶと、効果は60%。副作用が強く出る割合が50%。

国立がん研究センター中央病院の後藤悌(ごとう・やすし)医師は、次のように述べます。

「AとBを比べると、効果も副作用が強く出る割合も、それぞれ20ポイントの差があります。微妙な差の場合は、それぞれの人の生活の価値観がとても大事になってきます。とくにリスクのとらえ方は人によって千差万別なのです」

自分の生き方、価値観を深く見つめてみることが大事だと後藤医師は指摘します。

「ちょっとした副作用なら乗り越えて、少しでも効果が見込める治療を選びたいという人もいます。あるいは、副作用がつらいと生活に差し障るから、効果が少し減ってもつらくない治療がいいという人もいます。悩んでなかなか治療を選べない患者さんに対しては、『最終的には生き方次第です。どちらを選んだ場合にも、私は応援します』とお伝えしています」

言葉の意味がわかっていないと治療法を選べない

今は診療の場で、カタカナやアルファベットの専門用語が飛び交うようになりました。そもそも医療には私たちが普段見慣れない指標がいくつも存在しており、見知らぬ指標で数字を突きつけられても、患者の頭の中は混乱しがちです。

電通ジャパンネットワーク執行役員の北風祐子さんは、5年前に乳がんと診断され、治療の選択に悩みました。

北風さんは病期を示す「ステージ」は、非浸潤(がん細胞が乳管の外に広がっていない)の早期がん「ステージ0」と術後に確定しました。また、術後の病理診断で、がんの“顔つき”(悪性度)を示す「グレード」という用語で数字も示されました。その結果は、グレード3。増殖は早いタイプではありました。

「カタカナの意味をちゃんと理解しているのは大前提。診察のときに先生がいう言葉の意味が理解できていないと会話も成り立たないし、何より自分の治療法を選べません」

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