日本の家族が「コロナ自宅療養」で陥る壮絶事態 3割で「濃厚接触者」が食料や日用品の買い出し

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では自宅療養者はどのようなケアを受けていたのだろうか。

図5に示した「自宅療養者が自分でしたこと」は、1人世帯と2人以上の世帯で割合が異なる。当然ながらいずれも1人世帯のほうが自分のことを自分でしており、もっとも差が大きいのは「食事をつくる」だ。それに「食事をする」「病院や保健所への電話連絡をする」「日用品の買物に行く」が続く。

「自宅療養者が自分でするのが難しいのに手伝ってもらえなかったこと」は、1人世帯では多い順に「日用品の買物に行く」「食事をつくる」「食事をする」があがる(図9)。1人で療養しているときには食事をするのさえ大変でも、頑張って自分で用意して自分で食べている様子がうかがえる。やむなく自ら買い物に出るケースもあったのはすでに見た。

「ケアの貧困」は1人暮らしだけの問題ではない

ケアのニーズがあるのに満たされないことを「ケアの貧困」(care poverty)と呼ぶなら、ケアをしてくれる人がいない1人暮らしの自宅療養者は当然ながら「ケアの貧困」に陥りやすい。1人暮らしの自宅療養から宿泊療養に切り替えた主要な理由は「自宅では看病や身の回りの世話をしてもらうのが難しいため」だった。

しかし、2人以上の世帯であっても「ケアの貧困」と無縁とはいえない。図9を見ると、自宅療養者が自分でするのが難しいのに手伝ってもらえなかったこととして、「食事をつくる」をあげたのは実は2人以上の世帯のほうが多いくらいだ。他の世帯員がいても、無理を押して自宅療養者が食事をつくったケースが少なくなかったようだ。全員が感染したからか、食事をつくれる人が他にいなかったからか。

「症状が夫より重い自分が食事の用意等せざるをえなかった」と自由回答に書き込んだ方もいる。「日用品の買物に行く」のも同様だ。(大人が全員感染したなどで)ケアをする人がいなくて困ったときにどうしたかという別の質問に対しては、2人以上の世帯では44%が「感染者が感染者の看病や世話をした」を選んでいる。

家族全員が感染したある女性は「夫は自分が発症するとすぐ寝込んでしまったので、私も同じく発症していたが、解熱剤を飲みながら子どもの看病をし、病院に連れていった」という。この方は「子どもが治るまでの3日程、ろくに食事や睡眠はとれなかった」そうだ。

自宅療養というと、家族にケアをしてもらいながら、慣れた自宅で療養しているイメージがあるかもしれない。しかし実際には、細心の注意を払って隔離や消毒をしても家族は次々に感染し、自宅療養者が増えていく。家庭内には自宅療養者と濃厚接触者しかいないのだから、買い物をするのも、ケアをするのも、食事の支度などの日常の家事をするのも、かなりの無理をしなければならない。

1人暮らしであっても、2人以上の世帯であっても、「ケアの貧困」のリスクがある。

*本調査は京都大学社会科学統合研究教育ユニット異分野融合プロジェクトの助成をいただいて実施したものであり、共同研究者の木下彩栄教授(京都大学医学研究科)の他、塩見美抄准教授(京都大学医学研究科)、村上あかね准教授(桃山学院大学社会学部)、岡本朝也講師(関西学院大学他)、王紫璇さん(京都大学大学院総合生存学館)、谷河杏介さん(京都大学大学院医学研究科)のご協力をいただいた。
落合 恵美子 京都大学大学院文学研究科教授

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おちあい・えみこ / Emiko Ochiai

京都大学 大学院文学研究科 教授。1958年生まれ。80年東京大学文学部卒業。87年、同大大学院社会学研究科博士課程満期退学。2004年から現職。

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