天才は「生まれつきか」「本人の努力か」永遠の論争 このシンプルな問いにもこれといった答えはない

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オリンピックで23個の金メダルを獲得した水泳選手のマイケル・フェルプスは、サメのような肉体をしており、ときどきサメと競争もした。フェルプスは身体的に恵まれた体つきをしていた。水泳選手にはうってつけの身長(193センチメートル)で、足は桁外れに大きく(まるで足ひれ)、異常に長い腕(オール)をしていた。

通常、ダ・ヴィンチの有名なウィトルウィウス的人体図が示すように、人が両腕を広げた長さは、その人の身長に等しい。しかし、フェルプスが両腕を広げた端から端までの長さは、200.6センチメートルと、身長より7.6センチメートル長かった。

だがフェルプスは、先に述べたとおり、天才ではない。これほど恵まれていながら、彼は何一つ、水泳という競技を変えるようなことをできていないし、オリンピックという祭典に影響を与えられてもいない。

ルールや評価基準を変えてこそ、「天才」!?

『ニューヨーク・タイムズ』紙が「米国史上最高の体操選手」と呼んだシモーネ・バイルズの場合は話が異なる。彼女のずば抜けた運動能力は体操に革命を起こした。2019年8月9日、彼女は平均台から2回宙返りで下りた初の選手となり、床では3回ひねり2回宙返りのトリプルダブルを決め、彼女の名前のついた体操演技の技を4つに増やした。どの新技についても、審査員は新たな「Dスコア(演技価値点)」を設定しなければならなかった。

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水泳のフェルプスと違って、体操を変革するバイルズは身長が低く(約142センチメートル)、小柄で、かなりの筋肉質である。そのため、ひねりや宙返りのときに彼女は体を小さくまとめておくことができ、それによってスピードを実現している。「どういうわけかこういう体に生まれついちゃったから、それを利用することにしたの」と、2016年、彼女は自分の体格について語っている。

それと同時に、彼女は2019年、企業向けのオンライン教育ビデオで、「何度も何度も繰り返し練習するとか、基本技を死ぬほどやるとか、精神面を鍛えるとか、そうした基本的なことに集中して取り組まなければなりませんでした。それがあってこそ、今私がここにいます」と、練習の大切さを強調している。さあ、先天的か後天的か?

こうした天才をめぐる問題について、次回も引き続き議論していく。

クレイグ・ライト イェール大学、ヘンリー・L・アンド・ルーシー・G・モーゼス名誉教授

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Craig M. Wright

学部生向けの人気講座「Exploring the Nature of Genius」(天才の資質探求)の講師を続けている。グッゲンハイムフェローであり、シカゴ大学から名誉人文学博士号を授与され、アメリカ芸術科学アカデミーの会員でもある。イェール大学の優れた学部教育に与えられるセウォール賞(2016)と優れた教育と学術に与えられるディヴェイン・メダル(2018)を受賞。イーストマン音楽院で音楽学士号を取得し、ハーバード大学でPh.D.を取得。

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