宮本笑里「すぐに消えると言われた」彼女の現在地 スタッフやリスナーに支えられて迎えた15周年
――今回、特に大変だったことは?
宮本:セレクトしたものはピアノで演奏を想定して作られた楽曲が多くて。例えば、「ショパン:夜想曲第20番嬰ハ短調 遺作(ミルシテイン編)」(平原綾香さんが発表した「ノクターン」の原曲としても知られる)とか。
そういう楽曲をヴァイオリンで再構築する作業が難しくて。ピアノで聴くとメロディーの美しさが際立つのに、ヴァイオリンだとそれがうまく伝わらない。特に、音楽的なブレスの場面を考えるのが難しかったですね。
――演奏する方々の息づかいが伝わってくる、とても繊細な音だと感じました。コロナ禍の状況下で、息を合わせて演奏するのは大変そうです。
宮本:幸いにも声を出すレコーディングではなく、細かく気にする必要はなかったのですが、一定の距離を保ちながら演奏はしていました。ただ、離れすぎてしまうと相手の空気が伝わりづらくアンサンブルが成立しないので、息づかいがわかる程度の近さは大切にしないといけませんでしたが。
深く知れば知るほどいろいろな雰囲気があるクラシック
――本作は、ゲスト奏者も多彩です。
宮本:ゲストの方々は皆さん、現代のクラシック音楽の代表的な存在。一緒に演奏してくださったことによって、楽曲がより鮮やかになりました。
――「木星」では、ホルンに福川伸陽さんが参加しています。
宮本:ホルンは演奏するのがとても難しい楽器で、その第一人者である福川さんと共演させていただいたこと自体が奇跡のようでした。レコーディング中は「なんでこんなに美しい音を響かせられるのか」という神技の連続で、圧倒されましたね。
――「ファリャ:スペイン舞曲第1番(クライスラー編) 」は、「木星」とは対照的に華やかな仕上がりですね。
宮本:これは前作で収録しようか迷って、気分的に当時収録するのを躊躇して最終的には録音しなかった楽曲。今回は収録できてよかったと考えています。
――「ピアソラ:リベルタンゴ」の緩急のある展開が、印象的でした。
宮本:「リベルタンゴ」って、最初からノリノリで演奏することが多いのですが、ミステリアスな雰囲気から始まって、徐々にエモーショナルになっていく展開で、ほかにはないユニークな仕上がりになったと思います。
――優雅な時間を紡ぐだけでなく、ライヴのような興奮を与えてくれたり、クラシックは、さまざまに感情を揺さぶる音楽だと改めて知りました。
宮本:クラシックは、深く知れば知るほどいろいろな雰囲気がある音楽。このアルバムを通じて、こういう部分ももっているんだという発見をしていただけたら。