発達障害の側と、一緒に働く定型発達(発達障害ではない人)の側。両者から見える光景はどれくらい違うのか。清水さんからの提案は、私にとっても興味深かった。
エイジさんや清水さん、先輩職員ら同席のもとで話を聞いたとき、最初に清水さんたちが指摘したのが「エイジさんは『ごめんなさい』と『ありがとう』が言えない」ということだった。具体的なケースとして教えてくれたのが冒頭のエピソードである。
エイジさんによると「ありがとう」も、「ごめんなさい」と同じく、口にした以上は相手の要求にすべて従わなければならないくらいの重い言葉だという。私たちにとっては潤滑油代わりの何気ない言葉が、エイジさんにとってはとてつもなく深刻な意味を持つ。
黙ってカップラーメンを持っていく
あるとき、清水さんがカップラーメンを箱買いし、「自由に食べてね」と事務所の一角に置いたところ、ほかの職員らは「いただきます」「ありがとうございます」などと言って持っていくのに対し、エイジさんだけが黙って箱に手を伸ばすということもあった。見かねた清水さんが「こういうときは、何か一声かけるものだよ」と注意したという。これに対し、エイジさんは「だって『自由に食べて』と言われているのに……」と首をかしげる。
また、エイジさんにユニオンにかかってくる電話相談を任せたところ、新規加入者がゼロの日が続いたことがあった。清水さんが応対ぶりを確認すると、相談者のトラブルについて違法か否かだけを機械的に答えていたことがわかった。「ユニオンの相談は、相手の本音や問題の本質を探りながら、ときに勇気づけたり、ユニオンなら何ができるかを伝えたりしないと、加入につながらない」と清水さん。
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