どちらかというと口下手なエイジさんがぽつぽつとこのときの心情を振り返る。
「僕にとっての『ごめんなさい』は、『なんでも言うことを聞きます』と言うのと同じくらい重大なことなんです。相手から『土下座しろ』『殴らせろ』『金を出せ』と言われたら、その通りにしなければいけない。そんなふうに考えてしまうんです」
果たして自分のミスはそこまでのことなのか――。そんなふうに頭の中で考えているうちに、はたからはだんまりを決め込んだように見えてしまった。
後になってエイジさんの言い分を聞いた先輩は安堵とあきれの入り混じった口調でこう返した。「そんなわけないじゃん。今まで謝った人から『殴らせろ』なんて言われたことあった?」。
当事者の経験を伝えるだけでは限界がある
本連載には、発達障害だという人からの取材依頼がとても多い。その特性ゆえにパワハラを受けたり、仕事を転々としたりして、貧困状態に陥ってしまうというのが典型的なパターンだ。背景には不寛容化する社会という構造的な問題があるものの、発達障害当事者からの経験を一方的に伝えることに、私自身が限界を覚えることもあった。
そんなとき、1人でも加入できる労働組合「プレカリアートユニオン」執行委員長の清水直子さんからから、こんな誘いを受けた。「発達障害の人が専従職員になったんです。取材しにきませんか」。
清水さんによると、ユニオンでもパワハラに遭ったという発達障害の人からの相談は相当数にのぼる。会社を追及する側のユニオンとして、こうした案件をただ解決するだけでなく、当事者を仲間として受け入れることに挑戦してみたいと考えたのだという。
「私たち自身が試行錯誤することで、発達障害の人と一緒に働くための“形”を見つけ、(社会で)共有したいと思ったんです」
新たな専従職員というのがエイジさん。もともとはプレカリアートユニオンの相談者で、自身の労働問題を解決した昨春、専従としてユニオンにとどまったのだという。
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