「発達障害男性の同僚」が追い詰められた深刻事情 「ありがとう」「ごめんなさい」がなぜ言えないか

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基本的に無表情で無口なエイジさんの心の中にこんな葛藤があることを知り、驚いた。ありがとう、ごめんなさいという言葉を発することを過度に警戒するのも、こうした心理と関係があるのかもしれない。

とはいえ、最終的にはマジョリティーである定型発達にエイジさんが合わせることになる。エイジさんは納得も共感もできないと思いつつも、まずはありがとうと言うことを心がけた。待ちぼうけを食らわせた来客にも謝った。電話応対では、できるだけ事前に想定問答や聞くべきポイントを文章に書き起こすようにしている。先日は、体調不良だという組合員に対して電話越しに「おかげんいかがですか?」と言ってみた。

「毎日が観察です。清水さんたちはどんなときに『ありがとう』と言うのか、どんなときに笑顔になるのか」とエイジさん。人間関係は変わりましたか? と尋ねると、「少しだけスムーズになったかな」と笑顔を見せた。その笑顔が本心からのものなのかはわからない。ただ勝手なもので、定型発達の私は笑顔を見るとやはり安心するのだ。

精神的に参っているのは…

もちろん美談ばかりではない。エイジさんと行動をともにする機会の多い先輩職員に言わせると、エイジさんは会議中にボーっとしていたり、街宣活動の細かな段取りでもたついたりすることがたびたびある。そして何度注意をしても、同じことを繰り返すという。

パワハラは許されないとわかっているので言葉遣いには気を付けている。しかし、改めるべきところは改めてもらわないと、自分がキャパオーバーになってしまう。先輩職員は「つらいです」とこぼす。エイジさんが専従職員になって1年半。いま精神的に参っているのは、エイジさんよりも先輩職員のようだ。

前途はいまだ多難である。ただやはり最後は清水さんの言葉で結びたい。

清水さんによると、この間、話し合いをしながら業務分担の見直しを進めた。エイジさんが苦手な電話相談の負担を減らす代わりに、得意分野は全面的に任せる。いざ振り分けてみると、車の運転や(組合活動に必要な)動画編集、機関誌のレイアウトやPDF化、データ入力といった分野での能力は極めて高いことがわかったという。

「今ではエイジさんはうちにとってなくてはならいない人材です」

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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