ロシアとの戦局で主導権を握り始めたウクライナ 開戦から半年、本格的な反撃作戦の実施も予想

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ロシア軍の苦境は、東部など他の戦線でも隠しようがない状況になっている。イギリス国防省は2022年8月9日、ロシア軍がウクライナで過去30日間に収めた最大の戦果は東部ドネツク州バフムトに向けた攻撃だが、10キロメートルほど進軍したに過ぎないとの分析を発表した。これに関連して、同筋はドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)の他の場所での前進はわずか1キロメートルに過ぎないことを明らかにした。

2022年7月初めにドンバス地方のうち、東側のルガンスク州をほぼ制圧するのに成功し、勢いに乗ったかに見えたロシア軍だが、西側のドネツク州では前進がほぼ止まっているようだ。これは、ウクライナ軍地上部隊の頑強な抵抗に遭っているためだが、それに加えてアメリカが供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」など西側から提供された圧倒的な火力が効果を発揮している。

こうした中、ロシア軍は占拠しているウクライナ南部にあるヨーロッパ最大級のザポロジエ原子力発電所に向けて攻撃を繰り返している。ロシア側はウクライナ軍による攻撃だと主張しているが、ウクライナ側が原発や住民を危険に晒す理由は見当たらない。これがロシア側の得意のニセ情報であることは間違いない。

原発攻撃は停戦交渉への誘い水

この危険なロシアの行動をめぐってはさまざまな臆測が流れているが、先述のアレストビッチ氏は「ウクライナをロシアとの何らかの交渉のテーブルに付かせるための威嚇戦術に過ぎない」と言い切っている。原子炉の損傷による核事故の恐怖で米欧を威嚇し、停戦協議を拒んでいるゼレンスキー大統領に対し、交渉に応じるよう圧力を掛けさせる狙いという見方だ。

しかし、一時米欧からも浮上したウクライナによる「領土割譲と引き換えの和平論」の実現性は今や霞んでいる。ウクライナ政権側がこれを受け入れる下地がほぼないからだ。ウクライナ国民の間でも、ロシアとの間で早期の交渉解決を望む声は極めて少数派だ。

ウクライナの国家民主化研究所が2022年7月1日に発表した世論調査結果によると、ロシアとの停戦を受け入れる条件として、回答者の89%が2014年のクリミア併合前の状態に戻すことを挙げた。つまり、ロシアが占領している東部ドンバス地域(「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」)のみならず、クリミアの奪還が不可欠との立場だ。

こうした世論も意識してか、ゼレンスキー大統領は2022年7月末、「すべての領土」を取り戻すまで戦い続けると言明。東部の占領地域のみならず、クリミアも奪還するとの意向を表明した。それのみならず、大統領は2022年9月ごろまでにヘルソン州南部とザポロジエ州の占領地を回復しなければならないとも述べ、本格的反攻作戦の開始を急ぐ構えを見せた。冬になれば作戦実施が困難になるからだ。こうしたゼレンスキー氏の強硬姿勢の背後には、停戦に向けた前提として、戦場でウクライナ軍にロシア軍に対する一定の勝利をさせることを決めたという、米欧側の戦略転換があるのは間違いない。

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