ロシアとの戦局で主導権を握り始めたウクライナ 開戦から半年、本格的な反撃作戦の実施も予想

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一方でプーチン政権の方も強硬姿勢を崩していない。ロシアは新たな領土併合に向け、占領地での「住民投票」を2022年9月11日に実施する構えだ。東部ドンバス地方の両「人民共和国」に、南部ヘルソン州とザポロジエ州を加えた4地域で行うべく準備が始まった。プーチン政権としては、クレムリンが仕組んだ形だけの「住民投票」を経て違法に併合を宣言した2014年の「クリミア・シナリオ」を再現する狙いとみられる。

しかし、攻勢に転じているウクライナ側がこの「クリミア・シナリオ」の再現を簡単に許すとは思えない。先述した、ヘルソン奪還に向けた攻撃や、それに加えて各地で活発化しているパルチザン攻撃などで住民投票を実施させない構えだ。つまり、2022年9月上旬に向け、ロシア軍とウクライナ軍の間で戦闘がさらに激化しそうだ。

これに関して、ロシアの有力な軍事専門家、ユーリー・フョードロフ氏はヘルソン州での今後の戦闘の帰趨に関し、興味深い分析記事をニュースサイト「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」2022年8月12日付に寄稿している。
  
それによると、ヘルソン奪還を目指すウクライナ軍の本格的反転作戦の構えを受け、クレムリンはパニック状態に陥った。ヘルソンが奪還されれば、クレムリンにとって大きな政治的ダメージとなるだけでなく、住民投票やヘルソンの併合そのものが不可能になるからだ。このためプーチン氏自身がヘルソンを死守せよとの命令を軍に直接発した。この結果、ロシア軍は2022年8月10日までにヘルソン州とザポロジエ州にウクライナ全土に派遣している全兵力の65%を投入したという。

戦略的罠にはまったロシア軍

しかし、この兵力集中こそロシア軍が自らを「戦略的罠」に追い込んだとフョードロフ氏は指摘する。兵力を集中させることで不可欠になるのは、より大規模な兵たんだ。しかし、先述したように、ドニエプル川西岸はウクライナ軍による補給路攻撃で弾薬、燃料の供給が難しくなっており、このままではロシア軍の弾薬がいずれ尽き「投降するか、パニックになって敗走する運命にある」と強調している。

ウクライナの軍事専門家であるオレフ・ジュダノフ氏は軍情報部の情報として、すでにロシア軍の作戦立案にかかわっている一部将校団が任を解かれ、取り調べを受けていると述べた。失敗の責任をめぐって、治安機関と軍との責任のなすり合いが激化していると語った。

一方で、最近になってウクライナ軍の本格的反撃作戦の開始が延期されていると言われる。これについて前出のフョードロフ氏はこう解説する。ロシア軍の兵たん補給が難しくなる見通しを受けて、当面は通常の交戦でロシア軍に弾薬を使わせて、消耗するのを待つ作戦という。そのうえで本格的な反攻作戦を始める戦略という。戦争でウクライナ軍が主導権を握ったことを象徴する事態だ。

この窮地をプーチン大統領はどう切り抜けるのか。しかし、それ以前の問題として、軍部から耳当たりのよい情報しか入らないプーチン氏がはたして侵攻作戦の窮地をどこまで認識しているのか、という根本的問題もある。ロシアでは1991年8月のクーデター未遂事件や2000年8月の原子力潜水艦クルスク号の沈没事故など、8月は軍にとって「鬼門の月」と言われる。これから9月にかけ、ロシアとプーチン政権にとって試練の時になることは間違いなさそうだ。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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