ウクライナ侵攻作戦開始から1カ月が過ぎたロシア。軍事作戦が難航する中、政権内の大物が戦争を批判して出国するなどプーチン体制の動揺が少しずつ表面化してきた。治安機関などエリート層でも責任のなすり合いの動きが始まった。苛立ちを強めるプーチン氏はついにスターリン時代の粛清を想起させる強烈な演説を行い、恐怖をちらつかせて国民全体に対し団結と自らへの再忠誠を求める事態となっている。
2022年3月23日までに辞任して出国したのは、エリツィン政権時代に第1副首相として民営化の推進役を務めたチュバイス大統領特別代表だ。政権内で侵攻に反対して辞任した初の大物だ。リベラル派でプーチン氏とは近い存在ではなく、政権の中枢ではなかった。しかし知名度では国民の間で高く、政権に打撃となるのは必至だ。これにより政権内部から同様の離脱が続く可能性が出てきた。
これより先、国内では国営テレビの編集者が看板ニュース番組の放送中に侵攻に反対する抗議プラカードを掲げるなど、異議申し立ての動きが少しずつ出ていた。これを受け大統領は2022年3月16日、力で反対論を押さえ込む強硬姿勢を明確に打ち出した。
スターリン時代を彷彿させる発言
プーチン氏は会議での演説で、スターリン時代の大規模粛清の歴史が国民的記憶になっているロシア社会にとって、背筋が凍るような言葉を満載した発言を行った。主な内容はこうだ。「西側はわれわれの社会を分裂させようとしている。戦争の損失を利用して国民間の対立を挑発しようとしている。『第5列』を利用して、目的を実現しようとしている」。キーワードは「第5列」。スターリン時代、外国の手先となって反国家的行動をしたとして粛清された多くの共産党幹部、軍人が張られたレッテルだ。
プーチン氏はさらに、強烈な言葉で踏み込んだ。「ロシア国民は本当の愛国者と裏切り者を区別できる能力がある。社会の自浄こそがわが国を強化する」。「裏切り者(ロシア語でプリダーチェリ)」とは、プーチン氏の言説の中で最も憎むべき相手を指す言葉だ。
最近も使った例がある。2018年にイギリスで元ロシア情報機関幹部のスクリパリ氏が毒物で襲われた事件で、プーチン氏はロシアの関与を否定する一方で、同氏を「プリダーチェリ」と吐き捨てた。ソ連崩壊時元KGBのスパイだったプーチン氏にとって、西側に寝返った元スパイは絶対に許せない「敵」なのだ。一方で、最大の政敵である反政権派リーダーのナワリヌイ氏に対しては、毒殺未遂までして刑務所に送り込んだにもかかわらず、彼にはこの言葉は使わない。
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