プーチン体制をきしませるロシア内の2つの勢力 新興財閥と軍治安機関への締め付け強めるプーチン

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NGR部隊は侵攻時に陸軍部隊とともにウクライナに侵入した。通常の作戦では、治安維持が任務となるNGRが攻撃の最前線に立つことはない。明らかに「軽武装」だった今回の侵攻作戦をめぐっては、クレムリンでスピーチライターを務めた経験からクレムリンの内幕に詳しいガリャモフ氏が「クリミア併合時のように、短期間で簡単にキエフを制圧できると軍部が大統領を説得したため」と解説している。

NGRをめぐり、クレムリンの内幕を暴く調査報道で定評のある国際調査報道組織「ベリング・キャット」の看板記者グロゼフ氏は、より衝撃的情報を伝えている。副隊長は逮捕されたのであり、その理由は機密漏洩という。具体的には、ウクライナ国内でのロシア軍部隊の配置に関する情報漏洩という。この関連で想起されるのは侵攻直前にロシア軍の侵攻が間近だと断言したバイデン氏の発言だ。

最大の治安機関FSBにも異変が

グロゼフ氏はさらに、ロシア最大の治安機関である連邦保安局(FSB)でも異変が起きていると伝えた。FSBでウクライナ情報を担当していた第5局のトップであるベセニン氏が、クレムリン内で逮捕されたとするものだ。もしこれが事実なら、軍部だけでなくFSBも侵攻前に、大統領にウクライナに関する不正確な情報を報告した可能性が出てくる。

これらの情報が意味することは、当初の作戦失敗をめぐりプーチン政権内で対立と責任のなすり合いが始まったということだろう。一方で、プーチン氏は失敗の責任を軍部や治安機関に押し付ける可能性を示唆した。2022年3月16日の演説で侵攻作戦について、「軍事行動の戦術は軍と参謀本部がまとめた」とわざわざ「戦術」に言及したのだ。侵攻するという自分の戦略は正しかったが、戦術が間違っていたと言わんばかりだ。今後の治安機関内での捜査が進む中で、自らの責任を棚上げし、粛清の対象として「犯人」を国民に示すかもしれない。

だが、作戦の当初の失敗は軍部のお粗末さが要因だったとしても、その裏に実は別の重要な要因があると筆者は考える。簡単にキエフを制圧できるとの報告を信じ込んだプーチン氏自身の責任である。その背景には、ウクライナを下に見るプーチン氏の「侮蔑」があったのではないか。西側に走った「弟」ウクライナ軍を相手に大した兵力は必要ないし、簡単に勝利できるとの自信過剰だ。軍部や治安機関はそんなプーチン氏の過信に忖度して、プーチン氏が聞きたいストーリーを「情報」として吹き込んだだけではないのか。

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