プーチン体制をきしませるロシア内の2つの勢力 新興財閥と軍治安機関への締め付け強めるプーチン

✎ 1〜 ✎ 46 ✎ 47 ✎ 48 ✎ 最新
拡大
縮小

そうだとすれば、偽情報で国際社会を翻弄したプーチン氏が部下の偽情報で判断を誤ったという皮肉な「ブーメランの構図」が浮かび上がる。

こうした疑心暗鬼が広がる中、プーチン氏は2022年3月18日、モスクワの巨大なスタジアムでクリミア併合8周年を祝う大集会を開催した。会場周辺も含め20万人以上が参加したという集会に登場したプーチン氏は、「こんな団結は長いことなかった」と国民団結の必要性を訴えた。

とはいえ、大統領が引き続き国民から高い支持を得られるかどうかと、ガリャモフ氏は疑問を呈する。「国民がこれまで支持してきたのは、プーチン氏が始めたことを必ず成功させてきたから。失敗すれば支持は消えるだろう。大統領には国民が納得できる成功が必要だ」。同氏の指摘を待つまでもなく、プーチン氏自身もこれをよくわかっているはずだ。何らかの「成功」を達成するためにも、恐怖心を煽ってでも政権の下に国民を結集させることが不可欠だ。

背水の陣を敷いたプーチン

高級紙ネザビシマヤ・ガゼータは2022年3月16日の演説の意味について、このような見方を示している。「大統領がエリートに向けて再度の忠誠を求めたものであり、エリートに対する粛清はやがて一般国民にも広がるだろう」と。

反政権派が現在懸念しているのは、「第5列」という新たなレッテルが組織や個人に公式に張られることだ。政権は2021年夏から独立系のメディアや組織に対し、「海外の代理人」「望ましくない団体」などの指定を恣意的に乱発することで新聞を閉鎖に追い込み、民主派政治家を海外移住へと追いやってきた。

すでに、こうした懸念を立証しそうな前触れ的「事件」が起き始めている。反戦的言動をしたジャーナリストが住むアパート入り口のドアに、「祖国を裏切るな」との警告文とともに、今回の侵攻作戦でロシア軍のシンボルとなった「Z」の文字がペンキで書かれたのだ。この「事件」は写真付きでネットで報じられている。ナチス・ドイツがユダヤ人家庭のドアにダビデの星マークを付けた、おぞましい記憶が蘇る話だ。

プーチン氏は常軌を逸した侵攻を続ける一方で、ロシア国内でも恐怖を武器にこれまでの「プーチン1強体制」を死守するための背水の「戦争」を仕掛けている。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT