そうだとすれば、偽情報で国際社会を翻弄したプーチン氏が部下の偽情報で判断を誤ったという皮肉な「ブーメランの構図」が浮かび上がる。
こうした疑心暗鬼が広がる中、プーチン氏は2022年3月18日、モスクワの巨大なスタジアムでクリミア併合8周年を祝う大集会を開催した。会場周辺も含め20万人以上が参加したという集会に登場したプーチン氏は、「こんな団結は長いことなかった」と国民団結の必要性を訴えた。
とはいえ、大統領が引き続き国民から高い支持を得られるかどうかと、ガリャモフ氏は疑問を呈する。「国民がこれまで支持してきたのは、プーチン氏が始めたことを必ず成功させてきたから。失敗すれば支持は消えるだろう。大統領には国民が納得できる成功が必要だ」。同氏の指摘を待つまでもなく、プーチン氏自身もこれをよくわかっているはずだ。何らかの「成功」を達成するためにも、恐怖心を煽ってでも政権の下に国民を結集させることが不可欠だ。
背水の陣を敷いたプーチン
高級紙ネザビシマヤ・ガゼータは2022年3月16日の演説の意味について、このような見方を示している。「大統領がエリートに向けて再度の忠誠を求めたものであり、エリートに対する粛清はやがて一般国民にも広がるだろう」と。
反政権派が現在懸念しているのは、「第5列」という新たなレッテルが組織や個人に公式に張られることだ。政権は2021年夏から独立系のメディアや組織に対し、「海外の代理人」「望ましくない団体」などの指定を恣意的に乱発することで新聞を閉鎖に追い込み、民主派政治家を海外移住へと追いやってきた。
すでに、こうした懸念を立証しそうな前触れ的「事件」が起き始めている。反戦的言動をしたジャーナリストが住むアパート入り口のドアに、「祖国を裏切るな」との警告文とともに、今回の侵攻作戦でロシア軍のシンボルとなった「Z」の文字がペンキで書かれたのだ。この「事件」は写真付きでネットで報じられている。ナチス・ドイツがユダヤ人家庭のドアにダビデの星マークを付けた、おぞましい記憶が蘇る話だ。
プーチン氏は常軌を逸した侵攻を続ける一方で、ロシア国内でも恐怖を武器にこれまでの「プーチン1強体制」を死守するための背水の「戦争」を仕掛けている。