プーチン体制をきしませるロシア内の2つの勢力 新興財閥と軍治安機関への締め付け強めるプーチン

✎ 1〜 ✎ 46 ✎ 47 ✎ 48 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

さらに「自浄」にも、中年以上のロシア人なら誰でもわかる仕掛けがあった。「浄」を指すロシア語は、「粛清」をも意味するからだ。この激烈な発言をちりばめたプーチン氏の視線の先にあるのは、先述のテレビ局職員でないことは明らかだ。侵攻への懸念を表明した元閣僚や一部の新興財閥(オリガルヒ)といった、プーチン体制のインナーサークルからの一連の発言をより深刻視しているのは間違いない。

ロシア既成支配層の一員として、最初に明確に戦争反対を表明したのはドボルコビッチ元副首相(49歳)だ。2018年に解任された同氏は、アメリカのリベラル系雑誌のインタビューで「この戦争も含め、戦争というものは最悪のものだ。ウクライナ市民にお見舞いを申し上げる」と反戦の立場を鮮明にした。日本では無名だが、同氏はリベラル派の経済専門家だ。現在の国家安全保障会議副議長であるメドベージェフ氏が大統領在任中は、経済顧問も務めた。それだけに同氏の反戦発言はプーチン氏にはショックだったろう。

先述の演説でプーチン氏は「第5列」に当てはまる人を、「ロシアで収入を得ながら、精神的には外国のために動く人物」と規定した。元副首相の言動は、まさにこの「定義」に当てはまる。与党である「統一ロシア」の議員からは、プーチン演説の意を受けた批判が飛び出した。「ドボルコビッチは国家的裏切りであり、第5列的行動だ」と。そのため、同氏は先端技術開発の財団のトップを降りることになった。この事態は多くの政府職員にとって大きな警告になったはずだ。

だが、プーチン氏が現時点で最も警戒しているのは、オリガルヒが離反するかどうかといった動きだろう。彼らは治安機関とともに、プーチン体制を支える政商集団だからだ。侵攻が始まった直後の2022年2月末、代表的なオリガルヒ2人が侵攻の中止を求める声をあげた。その2人とは、ウクライナ生まれの金融王のフリードマン氏とアルミ王のデリパスカ氏で、いずれも世界有数の大富豪だ。

プーチンを支える2つの政商集団

フリードマン氏は社員宛ての書簡で、両親がウクライナ西部のリビウに住んでおり、両国民にとって戦争が「悲劇だ」と嘆いた。デリパスカ氏は、最近プーチン政権との密着ぶりが反政権側から批判されている大物だ。しかしその後、両者を含め侵攻に強硬に異議を表明する発言はオリガルヒから出ていない。おそらくプーチン氏の「第5列」演説が、恐怖感を彼らに強く植え付けたからだろう。プーチン氏はこう巧みに警告した。「フランスにヴィラ(邸宅)を持っていても非難しない。問題はこうした人々の心がロシアになく、向こうにあることだ」と。

オリガルヒの巨万の富の象徴は、欧州の有名リゾートに建てた宮殿のようなヴィラと巨大なヨットだ。欧米の大規模な制裁を受け、プーチン政権の強硬路線に不満を感じながらも、オリガルヒは一斉に口をつぐんだとみられる。

一口にオリガルヒと言っても、大きく2グループに分かれる。ソ連崩壊後のエリツィン時代に地位を築いたフリードマン氏とデリパスカ氏が代表するような前政権からの生き残り組と、2000年にプーチン氏が大統領に就任して以降、彼から利権の分配を受けてそれぞれ巨大な企業グループを作り上げた「プーチン氏のお友達から転じたオリガルヒ」たちだ。プーチン氏との密着度は後者のほうが当然強い。

次ページ「お友達オリガルヒ」による個人専制主義体制
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事