ニュースでは伝わらない「ウクライナ人の叫び」 記者軍団が現地の人のリアルを世界に発信

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ウクライナ侵攻によって人生が一変してしまったウクライナの人々の”ストーリー”を紹介する「War Stories from Ukraine」には、100人以上のジャーナリストやイラストレーターなどが参加している(Facebookページカバー写真:Varvara Perekrest、イラスト:Yulia Antonova)

激しい戦闘が続くロシアによるウクライナ侵攻。戦争で犠牲になるのはそこに生きる普通の人々だ。ある日突然、戦禍に放り込まれたウクライナの人たちのリアルな現状を世界に訴えかけようというプロジェクトがある。それが「War. Stories from Ukraine」だ。

紹介されているストーリーはさまざまだ。

例えば、病理生理学を専攻する25歳の大学院生は、ロシア軍の砲撃が続くハリコフに留まることを選択した。病院に寝泊まりしながら、定期健診、応急処置、無料のオンライン相談、ボランティアから持ち込まれた薬の仕分けなどを担う。彼がもっともショックを受けているのは一般市民への無差別な攻撃だ。負傷して運び込まれた老婦人は、ナチスでも右翼でも重要な軍事ターゲットでもないと憤る。

"イルピンは地獄 "だと語る30歳の女性は、戦争が始まるまではウエイトレスとして働いていた。彼女と夫は、ロシアに占領された街で、インターネットへのアクセス、電気、暖房、水なしで1週間を過ごした。彼女と3匹の猫は危険を冒して脱出を試みた。彼らは幸運だったが、多くの市民は脱出できなかった。今はリヴィウにいるが沈黙が怖く、外に出るのも怖いという。唯一の夢は、ウクライナの勝利である。

夫と、3匹の猫と脱出を試みた30歳の女性(写真:Anastasia Taran)

以前はショップの店員として働いていた妊娠8カ月目の女性は、お洒落をして生まれ故郷のキエフの街を散策するのが好きだった。親族や友人に促された彼女は田舎町に避難したが、83歳の祖母は「第二次世界大戦を生き抜いたのだから、この戦争も生き抜く」と故郷を離れることを拒んだ。親戚や友達にもう会えないこと、帰る場所がなくなることを恐れている。戦争が終わることだけが、今の彼女の夢だという。

SNSを通じて多言語で発信

「War. Stories from Ukraine」はロシア軍の侵攻により否応なく戦争に巻き込まれてしまったウクライナの人々の現実を、FacebookやInstagramというソーシャルメディアを使い多言語で世界中に発信している。ウェブサイトも準備中で、一部のストーリーは日本語にも翻訳されるという。

2月24日以降、生活が一変してしまったウクライナの人々は今、何を感じているか、何を恐れているのか、家から逃げるときに何を持っていったのか、なぜロケット弾の攻撃を受けている街に留まったのか、戦禍の中での生活はどのようなものなのか、悲惨な状況でも他人を助ける強さはどこから来るのか、彼らは何を恐れ、何を夢見ているのか……など、1人ひとりの魂の叫びとも言える“ストーリー”を発信している。

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