日本とは大きく違う研究者をめぐる環境。船田さんによると、そもそも海外では大学院生という存在は立派な「職業」として認められているという。
「日本でも、新卒の社会人は研修が多かったり、見習い的な扱いを受ける反面、給与はしっかり支給されますよね。それは、戦力になるまでの準備期間だと捉えられているからでしょう。海外では大学院生への見方もまさにそんな感じで、『専門家・研究者になるための見習い期間』と見なされている。だからこそ、給付型奨学金が支給されたり、学費や生活費を支援してもらえたりする。
こういう扱いを目にすると『海外の大学に進めばよかったな』と思うこともあります。日本では、研究者たちの研究活動が世の中にいかに貢献しているかという考え方が、他の国に比べて根付いていないですからです」
このような価値観がある背景には、日本が島国ゆえ、移民をほとんど受け入れていないという要素も影響していると考えているそうだ。
「日本では採用基準のひとつとして『コミュニケーション』や『人柄』が重視されますよね。でも、これらは自分と同じ国の者同士であったり、文化が似ていないと成立しない概念なんですね。
一方、人々が個々に異なるバックボーンを持っている海外では、研究成果くらいしか判断基準がなくなってしまう。僕も研究所に応募してきたスタッフの採用人事を経験したこともあるのですが、日本との違いを強く感じた瞬間でしたね」
共働きも「学び直し」の大きな要因になった
結果、船田さんは昨年までの約10年にわたり、シンガポールの研究所で働いてきた。家族にとっては、ここまでの長期勤務は予想外だったかもしれないだろう。だからこそ、船田さんは家族に対しての感謝の気持ちは大きい。
「やっぱり、家族のサポートはあったほうがいい。後に妻もシンガポールで働くようになっため、自分が『一家の大黒柱』と考え込む必要がなかったし、一時的に専業主夫になって稼ぎがなくても、妻から『何をやってるんだ』と愚痴られることもありませんでした。
この時から15年くらい経っているので、もっとこういうケースの夫婦や家族も増えていると思います。所帯持ちが借金して大学にと聞くとネガティブな印象を持つかもしれませんが、協力し合って生活が成り立つのなら、もう少し夢をもってお金を借りてチャレンジする発想でもいいのかもしれません。無利子の資金調達ができるってなかなかないことですし、首席レベルで修了すれば奨学金が返済免除になることもありますからね。
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