「奨学金440万円」44歳彼が語る親世代への違和感 学ぶ人が「変わり者扱い」される風潮に思うこと

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その後、船田さんは博士課程在籍中から、研究員として海外の大学で働き始める。どういった経緯で、特殊な進路を歩むことになったのだろうか。

「査読(学会誌などに投稿された論文をその学問分野の専門家が読んで、内容の査定を行うこと)のために、国内外の学会で論文を通して発表していたところ、当時、シンガポールの大学内にある研究所の先生をやっていた方が、半年間の契約で研究補助員として誘ってくれたんです。

とくに『海外の研究所で勤務』という響きに惹かれました。そういうのを履歴書に書けるのってカッコいいじゃないですか。当初は半年という話だったので、家族も納得してくれて、シンガポールに行くことになりました。当時は博士論文もまだ出せていませんでしたしね」

こうして、慣れない異国での生活が開始。と同時に、働き始めたこともあって奨学金の返済も始まった。

「日本に戻ってから博士論文に取りかかる予定だったので、最初は返済を猶予してもらおうと思っていたのですが、家族もこちらに来ることになって。猶予にはならず、返済が始まりました。

しかし、ゲーム会社時代と比べるとやはり給料が安くて。毎月約1万8000円が銀行口座から引き落とされるのですが、『わかってたことだけど、嫌だな……』と思ったこともあります。

それでもしばらく経って、博士の学位が取れてからはポンと給料も増えたので返済も楽になって。アカデミックの世界で博士という学位は、運転免許証ぐらい重要なんです。当時は毎日飲みに行ってましたね(笑)」

日本の「ポスドク」より遥かにいい給与水準

異国の研究所での労働と並行して、論文を執筆するという二足のわらじ状態で、博士号を取得した船田さん。さて、シンガポールで過ごした半年後は、どのようなキャリアを歩んだのだろうか?

「半年契約と聞くと、日本では『半年後にはパタリと契約が終わるんだな』というイメージですが、シンガポールの場合は、残ってほしいと思ってもらえたらどんどん契約を更新していくんですよ。それで結局、10年以上もその研究所に在籍することになりました。

給与面もシンガポールのほうが恵まれています。さすがにフルタイムの教授職と比較すると待遇は下がるものの、それでも研究員であったとしても、日本の国公立の教授職とそう変わらない水準なんです。海外は物価が高いので、高給取りみたいな生活はできないけど、いわゆる『ポスドク問題』のような悲惨な感じはありません」

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