「東京駅舎の赤いタイル」復原した男のすごい人生 担当には早稲田大学大隈講堂など名建築がズラリ

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建設当時と今では窯が違います。焼くたびに火を入れ直すのは非効率なので、今はトンネル窯が開発されています。火を入れっぱなしにしておいて、タイルを台車に乗せて2日くらいかけて通過させて焼きます。同時に複数の製品を焼いているので温度は1250度から変えられません。

ところが東京駅の明るい赤は、この温度ではどうやっても再現できないとの結論になってしまいました。これで、いったん頓挫します。

──昔のやり方なら変えられたのに、最新技術では難しいなんてことが起こるんですね。どうやって解決したのでしょうか。

諦めきれない人が社内に何人もいて、ディスカッションを重ねました。INAXの窯を使う限り不可能なので、小ロット生産ができる協力工場で焼くことにしました。

次に問題となったのは土です。原材料は創建当時に使われたのと同じ常滑の赤土を考えていました。ところがこれは天然原料なので採集日で色が変わってしまいます。

東京駅ではシビアなコントロールが要求されていました。建物が6つのエリアに分けられていて、それぞれの“色のバラツキ”が指定されているほどです。それなのに使う原料が安定していないわけです。

たとえ見本焼きで合格しても、本番で再現できなければ意味がありません。そこで、まだ受注もしていない段階で本生産用100トンを確保しました。そういった苦労をみんなでしたのが東京駅の復原工事だったと思います。

面白いのはレンガにバラつきのある「南ウイング」

──完成した東京駅を目にしたとき、どう感じましたか。

感動しましたよ。それとともに、あれだけ苦労したのに色の違いが結構わかるなと落胆もしました。少し悲しい気持ちになっていたとき、復原工事の中心的存在であった鈴木博之さんの言葉と出会い「なぜこういうふうにしたかという説明ができる復原」が重要なのだと思えるようになりました。

実は、いちばん面白いのは東京中央郵便局側から見える南ウイングです。ここはほかと比べて色の違いがハッキリわかります。もともとのレンガにバラつきがあるんです。

創建当時、北ウイングから建築されています。順にタイルを納材していく中で間に合わなくなり、そこで今まで不良品として扱っていたものをもう1回使い始めるようになったのではないか。それでバラツキが出たのではと。あくまでも自分の推測ですが、当時の現場ではよくある話です。

結局、ここは色を合わせなくていいという指示になりました。そういう意味で、違いが生ずべくして生じたことを物語る、いい場所だと思っています。

次ページ設計者が色、テクスチャー、角の鋭利さまでこだわった理由
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