アメリカで600万人が「地球平面説」を信じる理由 「陰謀物語」という疑似宗教が持つ力と危険性

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宗教心のある人々の中にはここまでのくだりをいわれのない攻撃と受け取る人もいるかもしれない。 だが、この本から宗教を外すわけにはいかない。神聖なナラティブが大きな益と害を同時に世にもたらしている宗教は、物語パラドックスが最も純粋に表れている代表例だからだ。

支配的ナラティブと戦士

それに私が言いたいのは、宗教物語や陰謀物語の信者がナラティブから過大な力を得ているということではない。肝心な点は、宗教と陰謀物語はナラティブ心理の一般的な傾向がとくに鮮明に出ている例であることだ。私たちが世界を理解するために用いるナラティブには、あれもこれも説明しようとして拡大したがるという意味で、貪欲な性質が備わっている。また、自身の欠陥を否定しがちという意味で傲慢な性質が備わっている。そしてナラティブが十分な貪欲さと傲慢さで膨らむと、支配的ナラティブとなる。つまり世界の実質的にすべてを説明しようとするのだ。

世俗的か宗教的かを問わず、このような支配的ナラティブは提唱者から不可侵で議論の余地がないものとして扱われ、その物語を守るために戦う者は正義の側で戦う聖戦士になる。

これは独善的なマルクス主義者にも、熱狂的なMAGA (「アメリカを再び偉大な国に」のスローガン)の礼賛者にも、潔癖すぎる「社会正義派」にも、敬虔なキリスト教徒や地球平面説信者と同様に言えることだ。

ジョナサン・ゴットシャル ワシントン&ジェフーソン大学英語学科特別研究員

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Jonathan Gottschall

ワシントン&ジェファーソン大学英語学科特別研究員。著書にニューヨーク・タイムズ紙エディター選に入った『The Storytelling Animal』(未邦訳)、ボストン・グローブ紙のベストブック・オブ・ザ・イヤーに選出された『人はなぜ格闘に魅せられるのか――大学教師がリングに上がって考える』(松田和也訳、青土社)がある。ペンシルヴァニア州ワシントン在住。

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