アメリカで600万人が「地球平面説」を信じる理由 「陰謀物語」という疑似宗教が持つ力と危険性

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そもそも、地球平面説信者は科学の闘士ではなく物語の闘士だった。パララックスは地球の形状に本気でこだわっていたわけではない。

彼がこだわったのは自分のお気に入りの物語を宣伝し、擁護することだった。それもただの物語ではない。聖書に書かれている、物語の頂点に君臨する物語だった。パララックスは聖書に書かれたそのままを頑固に信じる創造論者だった。生命の起源と発達をめぐって進化生物学者と争う現代の創造論者は私たちにもおなじみの存在だ。

だが創世記の物語はあらゆる生命の突然の出現だけでなく、天地創造についても語っている。パララックスは地質学系の創造論者だった。彼は神が1日で地球を創ったと感じ、聖書のさまざまな記述を地球が平面であることの描写として解釈した。

創造論者が拒絶したもの

パララックスは地球は丸いという説はうそではなく科学的誤りだとした。

しかし、彼の信者はやがて地球は丸いという説を、聖書信仰を揺るがし世俗的な世界観を広めるために世界の本当の姿を隠そうとする、文字どおり悪魔の陰謀だとして非難するようになった。聖書に忠実な現代の創造論者と同じように、地球平面説を唱えた創造論者が拒絶したのは地球科学そのものというより、科学に源流を持つナラティブだった。彼らが戦っていた相手は、聖書がほこりをかぶった神話の集積であり、生命は偶然発生し、どろどろした原生生物から10億年かけて無意味な性交と殺し合いを経て進化していった、という思想だった。

この10年で、地球平面説は主にデジタルメディアをエネルギー源として大々的に再注目されるようになった(ユーチューブの推奨アルゴリズムだけでも、地球平面説の動画を何億回も推薦して積極的な役割を果たした)。

一部の聖書原理主義の地球平面説信者は今も悪魔の陰謀と戦っているが、現代の最も目立つ地球平面説信者たちはごくふつうの世俗的な陰謀論者だ。

そして彼らの前にも、同じように動機の問題が立ちはだかっている。ユダヤ人、ビルダーバーグ会議の面々、イリュミナティ、四次元からやってきた爬虫類人の支配者など、黒幕と思われる対象を挙げればきりがないが、なぜ彼らはわざわざ大変な手間をかけて世界が丸いと私たちに信じ込ませようとしているのか。

私たちを欺くには、世界中の宇宙飛行士、科学者、船員、航空機パイロット、地図製作者、各国の大統領など、百万人単位の人々が口裏を合わせるための気の遠くなるような統制が必要なはずだ。彼らに何の得があるのだろうか。

しかし子細に見てみると、世俗の地球平面説信者には壮大で説得力のある物語がある。

その全体的な効果は、赤い薬を飲むと自分が本当だと信じていたことがすべてうそであり、悪の勢力が自分という人間のあらゆる面を管理しているとわかる映画『マトリックス』によく似ている。聖書原理主義の地球平面説信者が聖書物語の世界に生きているのに対して、世俗的な地球平面説信者はSFとミステリーとスリラーが入り混じった世界に生きている。世俗派たちは手がかりをつなぎ合わせ、犯人を暴き、その隠れた動機を解明するという探偵のような仕事を求められているのだ。

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