剛さんも同じ気持ちだったようだ。数カ月後には真紀子さんの家に泊まりに来るようになった。「どういうつもりなの」と軽く問い正したところ、「ちゃんと付き合いましょう」と明確な返事。しばらくして彼の借りていたアパートが更新の時期を迎え、比較的広くて駅からも近い真紀子さんのマンションで同居することになった。
「私から誘ったわけではないですよ。『あなたが決めてくれたら、その後で私が判断する』という姿勢を貫きました。決断は男性に委ねるほうがいいと思うからです。すべて従うとはかぎりませんけど。女はズルいって? ズルいのは男のほうですよ。離婚したとき、『結婚なんてするつもりはなかったのに押し付けられた』と言われましたから。私だって無理に迫ったわけではなかったのに……」
お人よしの部類に入る真紀子さんだが、手痛い経験で男性の扱いを学習しているようだ。自分で選択したことにしか責任を取ろうとしないのが男性なのだ、と。
悲しい流産が結んだ縁
同棲を始めたとき真紀子さんは43歳。書類の手続きが煩わしい結婚への願望はもはやなく、このまま仲良く共同生活を送れたらいいと思っていた。ところが、翌年に思いがけず妊娠が発覚する。残念ながら半月で流産してしまったが、産声を上げることのなかったこの子が2人を夫婦にしてくれた。
「妊娠したことがわかってから、彼とすごく話しました。もし子どもを育てられるなら結婚するべきなのではないか、と。すぐに流産してしまいましたが、妊娠できたことで縁を感じたのだと思います」
この結婚を最も心配したのは意外な人物だった。大病から回復した母親である。剛さんは次男であり、長男にはすでに子どもがいる。とはいえ、大切な息子を12歳も年上の女性に渡せるのか。
「『私が剛さんの母親だったらとてもじゃないけれど許せない』とはっきり言われました。強く反対されたわけではありませんが、『自分たちのことよりも、相手の親の気持ちを最優先しろ』と。母親の言うとおりだと思いました。こんなに歳をとった奥さんを受け入れてくれたのは、本当にありがたいです」
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