だが、そのとき、江藤と副島のもとに佐賀から来客が訪れる。そのころ、佐賀では、憂国党という士族集団が勢力を拡大。またそれに対抗する征韓党のほか、中立党も生まれるなど、佐賀藩の内部は混沌を極めていた。
江藤と副島のもとを訪れたのは、征韓党の中島鼎蔵や山田平蔵らである。わざわざ上京した2人は、こんな要請を行っている。
「佐賀藩に帰郷して指導にあたってほしい」
危険な誘いであることはすぐにわかる。士族たちをなだめる役回りを務めることは、士族をまとめる指導者に祭り上げられることになりかねない。板垣らに強く制止されて、副島は帰郷を拒み、東京に留まることにした。
故郷の人間の頼みをむげにできなかった江藤新平
一方、江藤は周囲の反対を押し切って、佐賀へ帰郷することを決意する。自分を頼ってきた故郷の人間の頼みをむげにすることができなかったのである。
だが、このときの判断が命取りとなった。江藤は故郷の佐賀に戻るが、不平士族たちの激しさにいったんは長崎に赴いて休養をとっている。
このまま、密かに東京に戻っていれば、また展開は違ったかもしれない。しかし、混乱状態の故郷を見捨てるわけにはいかなかった。
明治7(1874)年2月、覚悟を決めて江藤は佐賀に入っていく。ちょうど同じころ、大久保は海陸軍の将官と内務省の官僚を従えて、横浜から九州へと向かう。
いよいよ激突の日が迫っていた。用意周到に準備してきた大久保に対して、江藤はほぼ行き当たりばったりで「その日」を迎えることになる。
(第42回につづく)
【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』(講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家(日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』(ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵”であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)
瀧井一博『文明史のなかの明治憲法』(講談社選書メチエ)
鈴木鶴子『江藤新平と明治維新』(朝日新聞社)
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