会社を辞め、カレー屋開き「15年」続けられた理由 人気が出ても「店は増やすことは考えていない」

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だが配属になった大阪で、空調設備などの現場監督を任されたのが仕事としてきつかった。大学を出て1、2年の“若造”が、取引先の現場で年配の作業員たちに指示しなければいけない。

さらに病院の改修工事を担当したときは、ミスがあって設備が止まれば患者の生命に関わる、というプレッシャーがのしかかった。それでも、予定どおりに任務をこなすのは当たり前。誰かから直接、感謝されるような仕事ではなかった。

仕事のストレスを解消してくれたのは、やはりカレー。大阪でもたくさんのカレー店を食べ歩いたが、まさか自分で店を開こうなどとは思いもしなかった。

「飛ぼうか? 飛ぶまいか?」

転機はふいに訪れた。大学の後輩から、両親がカレー店を開くのでアドバイスしてほしい、と頼まれたのだ。馬屋原さんは初めての飲食店経営に不安そうだった店主夫妻を励まし、開店をサポート。結果、店は繁盛した。

自分の関わった店が軌道に乗る過程を目の当たりにしつつ、何より、いきいきと楽しそうに働く店主夫妻の姿を見ると、心にグッとくるものがあった。「自分もカレー店を開きたい」。だが安定した人生が約束されている会社を辞めて店を出すなんて、あまりにリスクが大きすぎないか? 心は揺れた。

開店前の仕込みの様子(撮影:今井康一)

そのころ、駅前の本屋に平積みにされていた内館牧子さんの著『夢を叶える夢を見た』(幻冬社文庫)を読んだ。

会社員を辞め、さまざまな仕事で独立した人と、しなかった人を取材したノンフィクションで、「飛ばなきゃよかった」と後悔する人、考え抜いた結果「飛ばなかった」人、逆にあのとき「飛べばよかった」と振り返る人など、さまざまな人生がつづられている。読めば、夢への挑戦が決してきれいごとではないこともわかった。

それでも「自分はやっぱり飛んでみたい」。本が背中を押してくれた。当時はまだ20代後半で、独り身。多忙すぎてお金を使う暇もなかったため、開店準備に充てられる貯金が500万円あった。「やってダメなら、また別の仕事でやり直せばいい」。2006年、28歳で会社を退職した。

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