羽生結弦のプロ転向会見に見た圧倒的な人間の幅 揺るぎない自負と「つらさや弱さをさらけ出す」強さ
真っ先に感謝を伝えたあとに、「まだまだ未熟な自分ですけれども、プロのアスリートとしてスケートを続けていくことを決意いたしました」とメインの報告をするところも羽生選手ならでは。ところが、「本当に……はあ。いや、本当に、あの、緊張しています……。こんなしがない自分なので、言葉遣いが悪かったり、噛んだりしても許してください」と大物らしからぬ振る舞いを見せたのです。
ちなみにこれは率直な振る舞いなのでしょうが、ビジネス的に見方を変えれば、相手に親近感を抱かせ、距離感を縮めるテクニックの1つ。実際、地位やスキルの高いビジネスパーソンの中には、自ら緊張していることを明かして威圧感を減らして距離を縮め、相手が話しやすいようにする人もいます。
その直後、羽生選手は、「僕は『自分の口から決意を言いたいな』と思っていたので、事前に大切な人たちに言うことはできなかったんですけど、それでも何も言わずに自分のことを大切にしてくれて、僕もそういう大切な方々が『本当に大切だな』と思ったし、また『これからも大切にしていきたいな』って思いました。本当に僕なんかのことを大切にしてくださり、本当にありがとうございました」とコメントしました。
あえて「大切」というフレーズを連呼している様子がわかるのではないでしょうか。「同じ意味でも少しずつフレーズを変えながら話すのが上手な話し方」と言われる中、あえて子どものように同じフレーズを連呼することで、嘘偽りのない気持ちを感じさせることができるという話術の1つなのです。
羽生選手自身のスピーチが終わり、記者の質疑応答に入ると、さらに注目すべきコメントが増えていきました。
謙虚と強気の両面で見せる人間の幅
今回の会見で最も印象的だったのは、「羽生結弦」への揺るぎない自負。自分の実績や能力に対する自信を謙遜せずフラットに話すことが、「やはりこの人は別格」とあらためて尊敬を集めることにつながっていたのです。
「今回の決断に寂しさはありますか?」と聞かれた羽生さんは、「寂しさは全然ないです」と即答。さらに「むしろ今回、最初に会見の案内文を考えていたときに、今後の活動について書いていただいたんですけど、自分の中で『そうじゃないな』と思って。『何かもっと決意に満ちあふれたものですし、もっともっと希望に満ちあふれたものだな』と自分では思っていたので。むしろ自分としては『これからも期待してあげてください』と胸張って言える気持ちでいます」と語りました。
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