羽生結弦のプロ転向会見に見た圧倒的な人間の幅 揺るぎない自負と「つらさや弱さをさらけ出す」強さ

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「本当に心が空っぽになってしまうようなことがたくさんありましたし、わけもなく涙が流れてきたりとか、ご飯が通らなかったりとか、そういったことも多々ありました」「正直いわれもないことを言われたりとか、『何か、そんな叩かなくてもいいじゃん』と思うようなこととか、正直いろんなことがありました」「人間としてもいろんな人が信頼できなくなったり、誰を信用していいのかわからないときもありました」。

さらに「大変だったこととか、自身にとって重荷になったことは?」と尋ねられた羽生選手は、「僕にとって羽生結弦という存在は常に重荷です。本当に常に重たいです。会見でお話させていただくときとかも『決意表明してください』と言われたときとかも、ものすごく緊張して、今まで考えてきたことが全て吹っ飛んでしまうくらい、手足も真っ青になるくらい、緊張していました」とコメントしました。

「ました」ではなく「ます」と締めた意味

今回の会見で羽生選手は、これらのつらさや弱さを率直に語ったうえで、「自分の心を大切にして、守っていきたい」というニュアンスの言葉を何度か使っていました。地位の高い人や有名な人ほど攻撃を受けやすく、それが目につきやすい世の中に変わったことで、「我慢」だけではやり過ごしづらくなっています。

しかし、むしろ成功者は自らつらさや弱さも発信できる人ほど、共感を得られやすく、さらなる攻撃を受けづらくなるもの。つい感情的になって「攻撃されたらやり返す」、あるいは我慢して「ひたすら耐える」という選択をしがちですが、羽生選手のようにそのどちらでもなく、ただつらさや弱さを吐露するだけのほうがさまざまな効果を得やすいところがあるのです。

会見を締めくくるあいさつをうながされた羽生選手は、「あらためまして、本当に応援していただき、本当にありがとうございます。『ました』ではなくて『ます』にさせてください。これからも応援していただけるように、ただ演技を楽しむだけじゃなくて、応援していただけるようにこれからも戦い続けます」などと語りました。

このような2~3文字の違いを軽視せずこだわって発信していく姿勢こそが、言葉で人々の心を動かせる人物であり、ビジネスパーソンにとっても参考になる存在とも言えるのではないでしょうか。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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