所得と富の不平等が政情不安をもたらす ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授
北アフリカでの政情不安が続く中で、アラブ世界の外に住む専門家は、「すべての問題は腐敗と圧政にある」と解説している。だが、それだけが理由ではない。高失業、不平等の拡大、生活必需品の価格上昇も大きな要因である。専門家は、「同地域で政情不安がどこまで拡大するか」だけでなく、「状況は似ているが、それほど経済的に困窮していない国でどのような変革が起こるか」を問うべきだ。
東アフリカ諸国では、所得と富と機会の不平等が過去1世紀で最も大きくなっている。ヨーロッパ、アジア、アメリカでは、企業は大きな利益を得るために徹底的に効率性を追求し、巨額の資金を積み上げている。その一方で、高失業と労働時間の短縮、賃金の伸び悩みで労働分配率は低下しているのだ。
逆説的だが、新興国の急速な経済成長により、国際的な所得と富の不平等は縮小している。しかし、大半の人々にとっては、遠く離れた国の人々よりも、隣国の人々と比べてどれだけよい生活をしているかどうかが問題なのである。
裕福な人々はよい生活をしているし、国際的な株式市況も回復している。多くの国では住宅や商業用不動産の価格は急速に上昇しているし、一次産品の価格上昇は鉱山会社や石油会社に巨額の収入をもたらしている。生活必需品の価格急騰が発展途上国で食料騒動を誘発している反面、インターネットと金融の発展が巨万の富を持つ大富豪を急ピッチで生み出し続けている。
長引く高失業は多くの未熟練労働者を苦しめている。たとえば、金融危機のただ中にあるスペインでは、失業率は20%を超えている。だが、同国の政府は財政赤字に対処するため、新たに引き締め政策を取らざるをえない状況にある。
多くの国で財政赤字が過去最高の水準に達しているため、財政政策による所得再配分を通して不平等を改善する余裕のある政府はないというのが実情だ。ブラジルのような国はすでに富裕層から貧困層に巨額の移転支出を行っているが、所得再分配をさらに進めれば、財政の安定と反インフレ政策の信頼性を損なうことになりかねない。
同様に大きな不平等を抱える中国やロシアなどの国は所得再配分を行う余地がある。しかし、両国の指導者は経済成長が滞ることをおそれて、大胆な政策を取ることを渋っている。ドイツは、厳しい状況に置かれている自国民だけでなく、EUの他の国を救済するための資金についても心配しなければならない。