対中国外交でみせた安倍元首相の意外な突破力 「脅威にならない」との日中合意を引き出す

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岸田政権の最優先課題は、参院選で大勝して政権基盤を強化し、長期政権の基礎を構築することにある。参院選は「安倍弔い合戦」と化したこともあり与党が大勝。改憲勢力も発議に必要な3分の2を超えた。岸田は改憲発議に積極姿勢をみせている。安倍外交を見てもわかるように、いったん悪化した関係を修復するには長い時間がかかる。しかも「尖閣」と「一帯一路」では、中国側に譲歩する「代償」を払った。

有事起こさせぬ外交を進めるべき

「リベラル」を自認する岸田氏には、対中関係改善に抵抗する右派を抑える力は希薄であり、そこが最右派の安倍氏と異なるウィークポイントである。岸田氏に党内右派の反対を押し切って対中関係を改善する胆力・力量があるとは思えない。

とくに自民党最大派閥「安倍派」が領袖を失った今、安倍派内の多数派工作と、他派閥との合従連衡が始まり、岸田は党内権力闘争に傾注せざるをえない。

日米政府が宣伝する「台湾有事」が切迫しているとはまったく思わない。ただ万が一、有事となれば、台湾だけでなく日中双方に深刻な犠牲をもたらす。岸田政権にとっては、外交力で台湾有事を「起こさせない」ことが喫緊の課題だ。両国間の数少ない「脅威とならない」という合意を国交正常化50周年の合言葉にするのは、それほど難しくないはずだ。

岡田 充 ジャーナリスト

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おかだ たかし / Takashi Okada

1972年共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て、2008年から22年まで共同通信客員論説委員。著書に「中国と台湾対立と共存の両岸関係」「米中新冷戦の落とし穴」など。「岡田充の海峡両岸論」を連載中。

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