対中国外交でみせた安倍元首相の意外な突破力 「脅威にならない」との日中合意を引き出す

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1年で退陣した安倍を後継した福田康夫政権は2008年5月、胡錦涛の訪日を実現、両国は「戦略的互恵関係」をうたう「第4コミュニケ」に調印した。さらに2008年6月には東シナ海ガス田共同開発協定の調印にこぎつけるのである。いずれも安倍訪中の関係改善のステップが結実したものだった。電撃訪中は当時外務次官だった谷内正太郎氏が、対中戦略対話のパートナーだった戴秉国・国務委員と、呼吸を合わせた外交成果でもあった。

次いで第2次安倍政権(2012年12月~2020年9月)。政権誕生の2012年12月は、尖閣諸島(中国名 釣魚島)3島「国有化」によって、日中関係が国交正常化以来最悪の状態に陥った直後だった。対中関係改善は第1期に続き、またも政権の一大外交課題になった。特筆すべき対中外交は次の3点である。

尖閣を「4項目合意」で処理

第1は、2014年11月に訪中し習氏と2年半ぶりに日中首脳会談を行った際の合意だ。尖閣問題で、両国が「見解の相違を認め、対話と協議を通じて不測の事態を避ける」とする「4項目合意」で一致した。中国側は、日本政府が尖閣をめぐる「係争の存在」を初めて認めたと、成果を誇った。

一方、日本側はこの文面は「双方は、尖閣諸島など東シナ海の海域において近年、緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し」と書いており、「尖閣領有問題と直接の関係はない」という異なる見解を示した。典型的な「玉虫色」合意だった。

この合意も、第2期安倍政権で「国家安全保障局長」に就任したブレーンの谷内が1カ月前に「4項目合意」を取りまとめ、訪中につなげた。訪中をめぐっては、福田康夫元首相が同年7月、極秘訪中して習主席と会い「お膳立て」をしたことも付け加えておく。日中政界パイプが細くなる中で、福田の役割は注目していい。

第2に、2017年5月北京で開かれた「一帯一路」国際フォーラムに、二階俊博・自民党幹事長と今井尚哉・政務秘書官を派遣し、習氏と面会した両氏は、「一帯一路」への条件付き協力姿勢を初表明した「安倍親書」を手渡した。

習氏は、「ハイレベル交流再開と関係改善に努力する」と回答、翌年の安倍訪中と首脳交流再開につながる。関係改善の「決定打」が、「一帯一路」への協力姿勢にあったのは明らかだ。当時、安倍外交のブレーンは、谷内氏から経済産業省出身の今井氏に替わり、「安倍親書」の一帯一路への前向き姿勢表明は、今井氏が「勝手に書き換えた」とされる。

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