対中国外交でみせた安倍元首相の意外な突破力 「脅威にならない」との日中合意を引き出す

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第3は、7年半ぶりの中国公式訪問になった2018年10月の首脳会談。安倍氏は「新たな時代」の関係構築に向けて①競争から協調へ、②互いに脅威とはならない、③自由で公正な貿易体制を発展、の「3原則」を提起した。

安倍側はこの3原則を「中国首脳と確認した」と記者会見で自賛するのだが、日本政府内や中国側から疑義が出たため、日中の主要メディアで「3項目合意」と書いた報道は皆無だった。ではこの時、習氏はどう発言したのか。新華社通信(2018年10月26日)は、習氏が「『お互いに協力パートナーとなり、脅威とならない』という政治コンセンサスを確実に貫徹実行」「多国間主義を守り、自由貿易を堅持し、開放型世界経済の建設を推進する」と述べた、と報じている。

習氏は「互いにパートナーになる」と「脅威とならない」を「政治コンセンサス」と強調したのだ。ただ③については、安倍氏が「自由で公正な貿易の推進」と、中国に注文をつける表現をしたのに対し、習氏は「多国間主義を守り、自由貿易を堅持」と、対米批判を意識した表現で応じ、見解の相違から合意できなかった。

「脅威にならない」は政治コンセンサス

第2期安倍外交は、2019年大阪で開かれたG20での日中首脳会談で、日本側の国賓訪問招請を習氏が原則的に受け入れ、首脳往来の回復が結実するかに見えた。しかし2020年春のコロナ感染拡大で、習訪日は棚上げされたまま今日に至っている。その意味では、安倍対中外交は、未完のまま後継政権にバトンタッチされた。

孔鉉佑・駐日大使は2022年5月29日、大使館ホームページに中国メディアのインタビューを掲載、「日本が中国を理性的かつ客観的に見つめ、『互いに協力パートナーであり、脅威とならない』という政治的コンセンサスを政策に反映させ、行動で体現することを希望」と述べた。中国側が「安倍3原則」の①と②を「政治的コンセンサス」として、4年後の今も重視していることがわかる。

とくに、日本で「中国脅威論」が翼賛世論化した現在、「脅威とはならない」は、日中平和友好条約がうたう「紛争の平和的解決を図り、武力の行使や威嚇に訴えない」を、双方がいま改めて誓約する現在的意味を持つだろう。不信感が高まる日中間の貴重な「合意点」として、強調してもし過ぎることはない。

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