アメリカの女子大生が「幕末日本」を学ぶ理由 日本社会、「ガラパゴス」が秘める可能性

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しかし、当時の日本の文部大臣は困惑しながら、あれは文部省(当時)のやったものではないので……と言って、塾の存在について公式には言及しなかった。確かに当時、塾は日本が目標としていた欧米にはない日本独自のものだった。しかし、ここで「あれは塾という日本独自の民間の教育組織で、学校の学習を補完して高いレベルの教育の維持に貢献しているものです。日本は、官・民の両方で教育を支えています」と説明していたら、今頃、アメリカ中に学習塾があったかもしれない。

これはほんの一例だ。世界規模でのマーケティングを考えるときには、ガラパゴス化をどう扱っていくか、一度、省みる必要があるが、ガラパゴス的であること自体は、必ずしも悪いことでも、おそれることでもない。実際、本家・ガラパゴス諸島ほど生物学の発展に貢献した島はないのだから。

日本の経験は、そのまま貴重な研究資源である

日本社会はユニークだ。ざっと挙げるだけでも、江戸時代のように250年近くも鎖国し、独自の文化を発展させた国はない。非欧米諸国でいち早く近代化を遂げた。唯一の被爆国。敗戦後、天然資源に頼らずに史上類を見ない経済発展を遂げた。戦前、大きくあった教育の地域間格差が1970年代には学力試験という点ではほぼなくなったうえ、世界トップクラスの学力スコアを示すまでになった。土地投資によるバブル経済からバブルの崩壊。大学進学率で見る教育の充実度の高さ。急速な少子高齢化。埋まらない地域間格差。長引くデフレ。震災復興……。 

ナタリアの勉強ノート。古文体で書かれた古記録も読む

これだけの経験、つまり研究資源を短期間で持った国はなかなかない。何が原因でそれが起こったのか検証し、問題を改善していくため取られた政策などを挙げ、その効果を測定・評価する。これらの調査研究を発表することで、学術界に大きな財産を生むだけでなく、世界各国にモデルケースを提示できる。

日本は先人たちの積み上げによって、紛れもなく先進国になった。海外から学ぶこともまだたくさんあるが、日本にある知的資源をうまく生かし、世界の「積み上げ」の大きな一部になることを願ってやまないし、私自身もそれに貢献していきたい。

先ほどのナタリアに「ナタリアみたいな子は周りにあまりいなかったんじゃない?」と聞くと、「変わってるって言われるけど、私が世界にとって大切だと信じるものをシェアするために、一生懸命頑張りたい!」と笑顔で答えていた。

岡本 尚也 物理学者・社会起業家

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おかもと なおや / Naoya Okamoto

1984 年、鹿児島県に生まれる。慶應義塾大学理工学部卒、同理工学研究科修了後、ケンブリッジ大学にて物理学博士号を取得。その後、オックスフォード大学にて日本学修士号を取得。ケンブリッジ大学在学中の研究成果がNature Materials 等、世界トップジャーナルに論文が掲載された。帰国後、NPO法人を創業し、現在は一般社団法Glocal Academy 代表理事。社会や学術における諸課題を研究的手法を用いて解決する事を目的とし、後進の育成やそれら課題に取り組む個人及び企業・団体を支援している。http://glocal-academy.or.jp/

2016年冬に新興出版社啓林館より『課題研究メソッド―より良い探究活動のために―』を出版予定。

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