アメリカの女子大生が「幕末日本」を学ぶ理由 日本社会、「ガラパゴス」が秘める可能性

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オックスフォード大学教会の上から中世さながらの風景

物理学の祖と呼ばれるニュートンであるが、その著書『プリンシピア』において、当時、研究が進んでいた周辺の物理現象や惑星の運動を数式で記述することで、それらの現象の統一的見解と定量的な実証を可能にし、まさに巨人の肩の上に立つと同時に、後世物理学の発展の「積み重ね」の礎となった。

この言葉はつねに意識しているが、オックスフォードでの次のようなエピソードで、より鮮明になった。ある科目の先生とエッセーで扱う文献について話したとき、こう言われた。

「日本のことを扱ったものでも、日本語の文献のみを読むのではなく、英語の文献も読むように」

日本語の文献は日本人が日本人のために書いたものであって、世界中の学者が共有しているものとは違う場合があるからだそうだ。第2回でも少し触れたが、学問の世界に国境はない。そして、現代では英語を用いて全世界の学者たちが日々「積み上げ」を行っている。

物理学の世界では日本語論文に学術的な価値はない

少なくとも物理学の世界では、どんなによい内容でも、日本語で書いた論文は積み上げの一部にならないため、学術的な価値はない。英文の著名な論文誌に載せることは積み上げへの大きな貢献であり、研究者への評価にもつながる。“Nature”の小保方氏らの論文、アメリカ、ベル研究所にいたヘンドリック・シェーンによる捏造問題による騒動もあり賛否両論だが、これが全世界共通の評価基準である。

一方、日本の大学界はグローバル政策が進められているが、根本的なところに問題があるように思える。文科省の統計にあるようにサイエンス・テクノロジー分野の論文数にも陰りが見えているが、人文・社会科学系分野の研究は世界において存在感を示せていない。研究とは論文を書いて学術界に貢献すること、つまり世界規模での積み上げの一端を担うことであり、よい研究者かどうかは英語論文の質と量で測られる。

確かに分野によっては日本語の論文や本が必要な場合もあるが、英語で発表された論文の少なさはちょっと寂しい。こういう話をすると、日本の英語教育が悪い!とすぐに英語のせいにするが、サイエンス・テクノロジー分野に進む人も人文・社会学系分野に進む人も、同じような英語教育を受けてきている。それに、英語の論文は訓練をすれば書けるようになる。

日本の学術会の競争原理は世界からズレている

問題なのは、日本学術界における競争の原理原則が世界の学術界と異なっていることだ。「よい」学者の指標が少しずれてしまっているのではないか。もしそれにより、世界の学者たちの議論と日本の学者たちの議論に差が生まれているのであれば、その積み上げはどこに向かうのだろうか。

今、世界とのズレのネガティブな面を述べたが、一方で、「ガラパゴス化」という言葉で表される「日本独自の進化」は、ユニークさという面では優位性を持っているように思える。

日本の教育について書いた論文(R. Goodman 2007)にこういう逸話がある。1984年にアメリカの教育長官が日本の教育を視察する機会があった。長官は日本の塾を褒め称えた。アメリカでも塾のような精神を発展させたい、日本の教育はとても生産的だ、と。

次ページあれは文部省のやったものではないので……
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