「ASEANは親日」という幻想を打ち砕く中国の攻勢 デジタルに続きEVでも日本企業は出遅れる恐れ

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今後、日中企業の激しい競争の舞台となるのが「自動車分野」です。これまで、ASEANの自動車市場は「日本企業の一人勝ち」でしたが、ここに中国企業が挑んでいます。最大のポイントは「電気自動車(以下、EV)」です。ASEAN市場では、まだEV化率が低く、各国政府も本格的な政策を打ち出していませんが、早晩、EV推進の動きが加速するでしょう。

そうなれば、EVを強みとする中国メーカーのASEAN進出が本格化します。世界的にみてEVで遅れている日本メーカーが、中国メーカーの進出加速にどう対応するか、これからが正念場です。

ちなみに、中国の年間新車販売台数は、コロナの影響が残る2021年でも約2600万台です。そのうち、EVは約290万台で、これは、世界全体のEV販売の45%を占めます(参考:日本のEV販売台数は約2万台)。

ASEAN最大の市場であるインドネシアやタイでも、国内新車販売台数は約100万台程度ですので、中国の巨大な市場で鍛えられた中国メーカーが本格的に進出すれば、ASEAN市場などひとたまりもないかもしれません。

今後の成長分野である「デジタル分野」に続いて、主要産業である「自動車分野」でも中国の後塵を拝するようなことになれば、もはや「ASEAN市場は日本企業の牙城」とは言えなくなってしまうでしょう。

日本国内では、こうしたASEAN市場における中国企業の動きにやや鈍感ではないかと感じています。その背景には、「ASEANは親日」という思い込みと、「長年にわたるASEANにおける実績とブランド浸透度」への過度な依存があるのではないでしょうか。加えて、中国企業の競争力に対する過小評価もあるでしょう。

日本人が思っているほど好かれてはいない

ASEANに親日の方々が多いのは事実であり、それは喜ばしいことですが、日本に好意をもってくれていても、実利があれば、当然、中国とも付き合います。日本人が思っているほどには、日本を好きでもないし、中国を嫌ってもいません。そのあたりのしたたかさをしっかりと認識すべきでしょう。

冒頭でご紹介した外務省の世論調査は、この一端を示しています。また、過去の実績やブランド浸透度も、それらが「強み」であることは間違いありませんが、デジタル化や、自動車分野におけるEV化の動きは、これまでの強みを一気に破壊する力があることを忘れてはなりません。

長い間、ASEAN諸国はアジアの先進国であった日本を目標とし、日本もASEAN諸国を引っ張る存在でしたが、もはや、日本とASEANの経済格差は急速に縮まっています。遅れたASEANに、日本のものをもっていけば受け入れられる、という時代はとうに終わっています。

そこに、デジタルやEVで高い競争力を有する中国企業の進出です。感情論や過去の実績に甘んじることなく、また、中国企業の競争力を過小評価することなく、いかにASEAN市場で中国企業との真っ向勝負に打ち勝つか、まさにこれから日本企業の真の競争力が試されます。

武居 秀典 DIC インテリジェンス室長

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たけい・ひでのり / Takei Hidenori

一橋大学卒業。三菱商事で主に調査・分析業務に従事。調査部長や北京現地法人社長を歴任。ロンドン、NY、北京などに計14年間駐在。2023年大手化学メーカーDICに移籍。

 

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