新宿の文壇バー主人「コロナ禍2年」の切実な体験 営業制限下で協力金バブルを経験した故の苦悩も

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店内にはたくさんの本が並んでいる(筆者撮影)

最初の頃は協力金こそ出ていなかったので、月に約20万円となる店の家賃は貯蓄から自腹で払い、アルバイトへの休業補償は出していなかった。緊急事態宣言が解除されて店を開いてもお客さんが来ない日が続くと貯蓄もどんどん減っていき、預金残高が100万円を切ってしまった。

そのときは生殺しの状態だったという。アルバイトから、たった数百円の「備品が切れました」とLINEの連絡がくるだけで精神状態が削られ「申し訳ないけど今、お金の話は安いものであってもしないでくれ」と頼み込むまで追い詰められた。

「2021年は数カ月しか営業できていません。売り上げに関してはもちろんダメージを受けていたのですが、それよりもうちの店を拠り所にしていたお客さんのことが気になったり、アルバイトのモチベーションも下がらないか心配したりしていました。何か店のためにしていないと気がおかしくなりそうでした」

協力金により売り上げがプラスに

そうこうしているうちに東京都からの行動制限要請に応じている店には、1日当たり数万円の感染拡大防止協力金が支給されることになったので申請した。もらえるお金はほぼもらったという。大手の飲食店も『月に吠える』のような小さな店舗も一律の金額だった。

大手の飲食店だとそれでも赤字だが、肥沼氏の経営するバーは通常営業するよりも多くのお金が入り、いわゆる“協力金バブル”の恩恵を受けることになった。協力金のおかげで2021年の売り上げは例年よりもプラスになったというのだ。

「苦しいのは飲食店だけではありません。酒屋や氷屋さんなどの卸業も厳しいはずなのに『なぜ飲食店にだけ協力金が出されるのか』というクレームもたくさん耳に入りました。だから、この協力金をいかに皆様に納得してもらえるように使うかを考え、アルバイトに休業補償を出し、Twitterで協力金を使って3000円の図書カードを学生さん先着200名にプレゼントする企画を行ったり、店のnoteで『お酒に関するエッセイ』を募集して入賞者には馴染みの酒屋からお酒を購入してプレゼント、という企画をやったりしたこともありました。とにかく何か店のことをやっていたかったんです、うちの店の特色を打ち出した使い方をしました。

ほかには店の看板を新しくしたり、店のポスターやオリジナルTシャツを作成したり、グラスや椅子などを新調したり、飛沫感染予防のパーテーションを購入したりしました。協力金は課税対象なので、節税対策の意味合いもありました」

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