岸田政権の骨太方針に「アベノミクス復活」の奇怪 国民にとって怖い「円安リスク」の対策はなし

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何も手を打っていないわけではない。6月10日に受け入れが再開されたインバウンド(訪日外国人観光客)需要の効果などによって日本の経常収支が改善し、一方的に進んだ円安が修正される可能性はある。

また、アメリカの金利引き上げがあまりに急激すぎて景気後退を招き、いずれインフレが峠越えしたり米欧の長期金利が上昇一服・低下したりすることで円高に向かう可能性もあるだろう。

しかし、そうした他力本願的な見通しに日本の経済・財政運営の行方を依存させ、その事実自体を「骨太方針2022」で国民に説明しないことは、時の政権として不適切ではないか。

円安は輸入物価上昇を通じて日本の家計を苦しめるインフレ要因になる。仮に日銀が金利封じ込めに音を上げ、日本の長期金利が1%上昇すれば、2年後の国債利払いは年3.7兆円増えると財務省は試算している。これは生活保護費(年約4兆円)にほぼ匹敵する規模だ。

その際は、金利上昇下で国債を増発すればいいという安易な議論にはなりにくく、たちまち歳出カットや増税が俎上に載せられるかもしれない。

政策の修正、転換の準備はできているのか

「分配重視」や「人への投資」という姿勢を強調し、8カ月の議論を経て公表した岸田政権の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」。当初の理念が後退する一方、資産運用支援に力点を置くなど業界や立場によって、その評価は賛否両論が渦巻く。

そうした中で安倍氏の“巻き返し”は進む。昨年末からはリフレ派の論客で元内閣官房参与、前駐スイス大使の本田悦朗氏を従えて、安倍氏が経済官庁の事務方トップと膝詰めで議論をやり合う姿がたびたび目撃されている。「まだまだ強い党内での影響力を武器に、岸田政権の政策を背後から動かそうとする姿勢は見え見えだ」(官庁関係者)。7月の参議院選挙後には、日銀の次期総裁(黒田総裁の任期は2023年4月8日まで)人事も具体化してくる。

世界で大きな構造変化が起きているときに、日本政府はマクロ政策の修正、転換の議論や準備ができているのか。「骨太方針2022」を見る限り、それはあまりに心細い。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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