実はメロン全国1位、茨城で聞いた「最高の食べ方」 生産者泣かせ「イバラキング」にも挑む達人たち

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長峰さんがこだわる赤肉の「クインシー」(写真:茨城県提供)

一方の長峰さんは赤肉の「クインシー」しか作っていない。

「私はクインシーがいちばんおいしいと思っていますから。あの濃厚さとねっとり感が大好きでなんです。繊維質が多い食感はクインシーならでは。歯を入れたときの歯ごたえが、ショベリっていうかシュバっという感じで。味でイバラキングに負けているとは思いません」

JAほこたメロン部会では、現在7品種を部会推奨品種として選定している。「イバラキング」「アンデス」「クインシー」「ルピアレッド」「なだろうレッド」「キスミー7号」「キンショー」の7つだ。そのうち、生産者がつくりたい品種を自由に選んでつくっている。

メロンづくりの奥深さ

メロンは見た目以上に気難しい作物だとよく言われる。ネットメロンは、網目模様の美しさも価格に直結する。味よく見た目もよいメロンを作るには、料理の達人のような繊細な温度管理が求められる。

メロンのネットは、果実が膨らむ際の内側からの圧力で果皮にヒビを入れ、その割れ目をふさぐかさぶたが網目模様になったもの。メロンが自分の体に描くタトゥーともいえる。温度管理次第でうっすらとしか線が入らなかったり、ぶっとい傷跡のような線が入ったりしてしまう。

「メロンづくりの大変さといったらです。1日中、中腰でメロンの世話をし、ハウス内の温度を調整するために、サイドのビニールを開けたり締めたりの繰り返しですから。それから病気を出さないための消毒もしょっちゅうで」(長峰さん)

メロンについて熱弁を振るうお二人(写真:筆者撮影)

「メロンは栽培期間が長いうえにやり直しがきかない一発勝負の作物。そのときそのときの温度の微妙な加減が品質に影響するから、果実が膨らみ始めたら、冠婚葬祭だって家族全員では出席できない。糖度が上がらなかったり、大きくならなかったり、きれいなネットにならなかったり。メロンは本当に奥が深い。はまれば面白いんだけど、息子はやりたがらないかもしれない。自分の場合は、ただただ追求したい、難しいからこそやめられないって感じなんですけどね」(鷺沼さん)

「自分の儲けも大事ですけど、今は鉾田のメロンがおいしいっていうことをもっと知ってもらいたいですね。東京に近い大産地なのに、その強みを生かし切れていないと感じています。もちろん市長も農協も頑張ってPRしてくれてはいるんですけど」(長峰さん)

「ここでも後継者問題は深刻でね。日本一の産地であるというブランドを守り高めていくためには、栽培面積を減らすわけにはいかない。そのためにもメロンでアピールして、儲かる百姓の姿を若い世代に見せ続けないと」(鷺沼さん)

深刻な話題についても明るく語るおふたりの黒い顔を見ながら、メロンの匠たちはきっと人づくりも上手なのだろうと感じた。

竹下 大学 品種ナビゲーター

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たけした だいがく / Daigaku Takeshita

1965年東京都生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、キリンビールに入社。新規事業としてゼロから花の育種プログラムを立ち上げ、プロジェクト中止の決定を乗り越えて同社アグリバイオ事業随一の高収益ビジネスモデルを確立。2004年には、All-America Selectionsが北米の園芸産業発展に貢献した育種家に贈る「ブリーダーズカップ」の初代受賞者に、ただひとり選ばれる。技術士(農業部門)。著書に『植物はヒトを操る』(毎日新聞社、いとうせいこう共著)、『東京ディズニーリゾート植物ガイド』(講談社、監修)、『日本の品種はすごい うまい植物をめぐる物語』(中央公論新社)、『野菜と果物 すごい品種図鑑』(エクスナレッジ)等。

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