障害ある子の学び「地域の学校か特別支援学校か」 発達のスピードが違う子、必要なのは個別教育

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坂口さんは、特に重度障害のある子どもの発達とコミュニケーション教育の指導法に、「脳の画像を分析検討した内容」を取り入れて成果を上げてきた。障害の有無の大きな違いは「発達のスピード」という。障害のある子どもは残存している脳機能を使いながら、脳を形成したり、損傷している部位を成長過程で再生・修復したりしているからだ(*3)。

「障害児は環境や教育から情報を受け取り、脳の中でそれを処理するとき、障害のある部位を使えないので、迂回路を形成しているイメージです。このため、子どもたちはスロービデオのようにゆっくりと、でも確実に発達していきます」と坂口さんは説明する。

例えば、乳幼児がコミュニケーション力を発達させるときは、周囲の人や物に関心を持ち、その状態や反応に気づき、気持ちのやり取りをしていく。こうしたことを、障害のない子どもは友達と遊びながら身に付ける。そのスピードはとても速く、大人が変化に追いつけないこともある。

障害のある子はゆっくりと発達

一方、障害のある子どもは反応が微弱なため、周囲に気づかれにくい。そのうえ、先に挙げたような自然な習得がとても難しいため、1つのことができるようになるまでに、小刻みで何段階もの意図的な指導が必要になる。例えば、「トイレが終わったら、手を洗う」など、1つの生活習慣を身に付けるためには21段階の指導目標が設定される(*4)。

このような個別教育は、子どもの障害を改善・克服するという「医学モデル(障害は人にあるとする考え方。連載1回目に詳述)」と批判されることがある。かつて、教育における個別訓練と呼ばれていた指導は、指導法が確立していなかったこともあり、その効果を疑問視されていた時代もあった。

しかし、坂口さんは個別教育の効果について、「子どもは手をかけないと変わりませんが、専門的な指導法で向き合う時間を作れば、1年でも変化していきます」と言う。発達年齢の時期は健常児より幅があり、「高校生から指導を始めても可能性はある」という。

「障害児教育で最も大切なことは、どこで学ぶかではなく、どんな教育を受けるかです。子どもが本来の力を発揮し、介護を受けていても自立した生活を送り、社会の中で誇りを持って生きていくためには、どのような教育・サービス・支援が必要かを整理し、それを実現できる学校を目指し、不足をどう補うかを考えることが大切です。地域の小学校も特別支援学校も100%ではなく、それぞれによいところがあるからです」

障害のある子どもへの教育は、「共生社会」の考え方とともに少しずつ変わってきている。次回は、「地域の子どもは地域で育てる」の理念のもと、「地域の小学校が重度障害児をどのように受け入れているか」を紹介する。

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*1 平成18(2006)年の学校教育法改正にともない、翌年から障害のある子どもの学びは「特殊教育」から「特別支援教育」へ名称が変更された。学校名も 盲・聾(ろう)・養護学校から「特別支援学校」へ変更されたが、一部の学校ではいまでも養護学校の名称を使っている。教育内容は同じ。

*2 コミュニケーションには、聴覚、言語発達、発声・発音、認知等の機能が関係している。言語聴覚士は専門的な検査によって障害の構造を明らかにしたうえで、根拠のあるプログラムを設定し訓練を実施する。摂食嚥下(えんげ)も専門的に対応する。厚生労働省による国家試験で免許が付与される。

*3 加藤俊徳、坂口しおり[2005],『脳と障害児教育』,ジアース教育新社, p26

*4 坂口しおり[2006],『障害の重い子どものコミュニケーション評価と目標設定』,ジアース教育新社, p73

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