従来は、障害のある子どもは原則的に特別支援学校への就学を指定された。制度変更後は子どもの障害の状態、それに伴う教育ニーズ(個々に必要な教育目標)とともに「本人と保護者の意見を最大限尊重する」とされ、総合的な判断によって、教育委員会が最終決定することになっている。
崇さんはこう話す。
「制度では『保護者の希望を尊重する』とされていますが、保護者が意見をまとめて判断できるほど、教育委員会からは情報をもらえませんでした。担当者から、『看護師がいたほうがいいよね』『地域の学校は難しいよね』と言われながら、教育委員会の判断を聞かされたという印象が残りました」
そのうえで、「原則として、親の希望を最大限尊重するというのであれば、教育委員会がそれを適切でないと判断した場合、その合理的な判断の根拠を明らかにすべきで、教育委員会にはその責任があります」と言う。
この就学相談については、障害のある子どもとその家族と会うたびに取材を重ねたが、話し合いで合意を形成できなかったケースもあり、難しさと課題が残る。
障害の数は3000種類ほどといわれ、個別性が高い。教育委員会は国民の権利である義務教育を、憲法の条文の通りそれぞれの子どもに合った方法で受けさせることを責務としている。
文部科学省も国連で採択された障害者権利条約に基づく「インクルーシブ教育システム」を取り入れることで、障害の有無にかかわらず、一緒に学べる場を設定している。だが、同条約の理念を掲げただけで、学校側からも、障害児の父兄からも不評を聞く。
そもそも、「健常児、障害児と学校を分けることは、国連の同条約および国内の障害者基本法、障害者差別解消法に反するのではないか」という声は根強い。
障害のある子には個別教育が必要
それでは、どうして、障害のある子どもには個別教育が必要なのか。
東京都立村山特別支援学校の坂口しおり校長(58)は、特別支援学校で35年間、障害児教育を担当してきた。特別支援学校教諭免許のほか、言語聴覚士(*2)の資格を持つため、教育と医療の両方に詳しい。
坂口さんは、障害のある子どもの体の状態について、こう説明する。
「重度の障害児の多くは、脳や脳神経の特定部分の形成不全、または損傷をしていることが多いため、環境や教育から自然に取り入れる情報量が少なく、処理能力も弱くなっています。このため、周囲の人や物とのコミュニケーションが十分に取れないことがあります」
さらに、「目の機能、手の動き、体の姿勢など、自分の体をどのようにコントロールするかを、生活で自然に学習しにくい」とも言う。
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