社労士さんたちがすべて悪いというわけではもちろんありませんが、労働者側ではなく企業側に立っているために、どうしても企業側に忖度するバイアスが生まれうる。中には、経営者といっしょになってハラスメントに加担してしまったり、誤った法律情報を労働者に教えている場合もよくあります。
さらには、セミナーなどで企業側に都合のいい言説を喧伝するケースも見受けられます。ただし、こうした問題は企業側に雇われた弁護士とも共通しているので、社労士さんだけの問題ではないことも付け加えておきます。
――先程の産業医・産業カウンセラーの件と同様ですね。たとえばどんな例があるのでしょうか。
今野:とある都道府県の社会保険労務士会が行っていた学校での講習プログラムでは、「義務が第一、権利が次」というコンセプトが掲げられていました。これは法律学上完全に間違いで、労働者を萎縮させる論法です。というのも、市民社会の契約関係において義務と権利は完全に等価なので、1とか2とか言っちゃいけないものだからです。
さらに言えば、義務と権利は等価と言いつつも、実際には雇う側のほうが構造上強い立場であるのだから、労働者の権利をより強く保護しようという発想に立脚しているのが労働法であるはずです。
……というこの説明にしたって、あくまで彼らの言い方に当てはめるとこういう言い方になるよねという程度のものですが。なにせ、二重の意味で間違っているわけです。
――ひどいですね。
今野:もちろんすべての社労士さんがこういった考え方だというわけではありません。ただ、企業に雇われていると構造上どうしても企業側についた動きになりがちだということです。
また、企業側から達成すべき目標として課され、問題意識を持って臨んでいるのが「働かない社員をいかに働かせるか」といったイシューだったりする。実際、これは企業側から要請される社労士のミッションとしてはポピュラーなものです。それはそれとしてやればいいんだけれど、その発想を労働法教育の一環として組み込んだ時、偏った教え方をしてはいけないはずだ、というのは訴えていかねばならないと思います。
ケアの現場が抱える構造的問題
――専門的な知識を持つ人たちになかなか頼れず、場合によっては企業側に忖度する人もいるなか、どんな被害者ケアをしていけばいいのか。POSSEでおこなわれている被害者ケアの具体的な内容をご教示いただけるでしょうか。
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