今野さんは著書『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)の中で、若者を使い捨てにするブラック企業は、限られた労働力を消耗し、社会に大きな損失を与えていると指摘されています。ハラスメント被害者のケアは、個人のみならず社会の前進にも繋がるということかと思います。
今野:おっしゃる通りだと感じます。
――しかし、現実を見ると、充分なケアを受けられていない方がたくさんいる現状です。なぜなのでしょうか。
今野:そこには複雑な理由があると思います。まずは、相談できる専門家の問題です。たとえば、ハラスメントの被害者の中には、私たちPOSSEを利用しつつ、心理カウンセラーによるカウンセリングにも通っている方もいます。
ただ、私たちのようなNPO、それに弁護士、労働組合もある種のカウンセリングをしてはいるけれど、心理学的なカウンセリングのプロフェッショナルではありません。私たちの立場では相談者さんに言うことができないことも多いんです。
逆に、カウンセリングに通っているだけではストレスの元凶、労働問題そのものを取り除くことはできません。
社会福祉関係の人たちは?
――ソーシャルワーカーなど、社会福祉関係の方々はいかがでしょうか。
今野:そちらも同様といえると思います。ソーシャルワークの業界に労働法が周知されておらず、労働災害を受けた人たちに対するケアのマニュアルを確立できていないところがあるのではないかと感じています。
難しいところですが、こういうケースがあって、それぞれのケースでこういう法律が使えて、こういうケアが必要、という体系的な知識を備えていれば、もっと行き届いたケアができると思うのですが。
――たしかに、カウンセリングと労働法、両方の知見を持ち合わせている人材は、非常に稀有かもしれません。
今野:これが難しいんですよね。カウンセリングができて、なおかつ労使関係の中に入り込める立場というのが今、職業として存在するのか、という。一番近いところでいうと産業医と産業カウンセラーなんですが、彼女ら彼らを雇っているのが誰かというと、企業なんです。
――ああ……。
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