ZOZO SUIT終了「5つの失敗」裏で得た意外な財産 夢は破れたが大胆すぎる施策には意味があった
オーダーメイドのPB商品という夢は破れたとはいえ、研究が進めば1人ひとりのユーザーにフィットする商品の判別技術は進歩していきます。これはZOZOの関係者も言っていることですが、ZOZO SUIT2で体型を一度計測するだけで、ZOZOTOWN上のすべてのブランドを網羅して、的確なレコメンデーションができるようになるように未来のZOZOTOWNは進化できるはずです。
これはつまりアマゾンのアパレル版で「Aというブランドが似合う(と自分で思っている)人はBというブランドも似合います」「Aでこのサイズのあなたは、Cというブランドではこのサイズです」「AやBやCが似合うあなたは、残念かもしれませんがDやEのブランドは避けたほうがいいかもしれません」といった形でユーザーが自分に合ったアパレル製品を探しやすくなるのです。
一方で、これだけDXが注目を集め始めている今、ZOZO以外のアパレル関係者もユーザーの体型計測技術の研究を進めるようになりました。つまりこの先、デジタルによる体型計測と、そこから得られるビッグデータ解析を用いたデジタル革命は、ZOZOの専売特許のブルーオーシャンではなく、各社が血みどろの競争を繰り広げるレッドオーシャンへと移ることでしょう。
ベンチャー企業とは大企業が発想しないビジネスチャンスにいち早く参入することが存在意義なのですが、ベンチャーには大企業と比較して資金が少ないという大きなハンディがあります。前澤友作さんが構想したZOZO SUITの事業計画の優れた点は、そのようなアイデアを大企業になったZOZOで大規模に実行した点にあります。
ZOZO SUIT戦略の際立った面白さ
そしてZOZO SUITの無料配布に巨額の資金を投入する。この発想を行動に移すのは、前澤さんのように大胆な判断をして実行に移せる経営者でなければ、到底できないと私は思います。
そもそも最初に登場した高性能のセンサー方式のZOZO SUITの原価は公表されていませんが、2つめが3000円の有料価格で設定されていたことからわかるように原価もそのあたりかそれ以上のはずです。もしこれを1000万枚配布すれば、総投資は300億円必要になったはず。後に1着1000円の原価の2代目スーツに仕様変更しましたが、それでも投資規模は100億円。つまりベンチャー企業や中小企業の多いアパレル業界の競争相手にはできないパワーゲームを仕掛けた点が、実はZOZO SUIT戦略の際立った面白さでした。
その後、ZOZOは堅実経営で業績を回復し株主を喜ばせる企業として発展します。ZOZO SUITの失敗でZOZOが失った金銭は、ZOZOの実力から見れば些少な投資失敗額だったと私は思います。それよりももしこの失敗をきっかけにZOZOという企業の冒険心が、前澤友作さん時代よりも小ぶりなSサイズに変わりつつあるとしたら、それがZOZO SUITのもたらしたいちばんの損害ではないでしょうか。
「そんなことはないよ」
というお叱りの言葉がZOZOから返ってくるといいのですが。
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