哲学塾に日々やってくる"厄介な"塾生たち 哲学科の大学院に通う「唯一の利点」とは?

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第一に、大学以外の場で、本物の哲学に触れる場をつくること。

第二に、世間(社会)の空気に合わせることのできない人でも、自由に「呼吸できる」空間をつくること。

以上の2つは絡み合っていて、私の場合、小学校低学年のころから、「どうせ死ぬのだから何をしても虚しい」と思い、「明るく生きることは辛い」と考えてきましたが、そういう発言どころか態度さえ社会では通用しない。といって、とくに社会に反抗したいわけでもなく、自殺したいわけでもなく、一生寝て過ごしたいわけでもない。ただ、こういう「あたりまえのこと」を言わせてくれないどころか、考えさせてくれない社会が、恐ろしくてしかたなかったのです。

有料化で教室が「健康」になった

では、社会に出なくても(具体的に言うと官庁や会社に入らなくても哲学することを)許される生き方とは何か? それは、大学院にまで行って10年間修行し、哲学研究者としてメシを食うしかない。しかし、それもまた虚しいこと限りがないし、さまざまな偶然が作用してうまくいく確率はきわめて低い。とすると、どうにかして金は別に稼いで、哲学を続けられる道はないものか? 私は大学に入ってすぐにそんなことばかり考えていましたが……そんなムシのいい話はあるはずがない。

ここで、私の思考は完全にストップしてしまいました。それからの私の人生については第1回目のコラムに書きましたので省きますが、こういう人々が現代日本にごく少数でもいるのではないかと思い、お金は取るけれどあまり儲けない「哲学塾」を開いた次第です。

前(1997~2003年)に「無用塾」を開設したときは、国立大学の一教室を使っていましたので、完全に無料でした。しかし、今回有料にしてみると、塾の雰囲気も、塾生の態度も、甚だしく変わった。第一に、あっという間に「無用塾」当時のアナーキーな雰囲気が一掃されて、普通になった、あえて言えば「健康に」なったのです。

「無用塾」当時は、講義は午後3時から午後10時ごろまで続き、塾生は、いつ来てもよく、いつ帰ってもよく、いつ教室を抜けて休みを取ってもよく……教室内で寝ている者もいれば、廊下をふらふら歩く者いれば、その隅でずっとうずくまっている者もいる。授業中怒鳴り出す者もいるし、激しく泣き出す者もいる。

私は、それも面白いと静観していたのですが、そのうち「自殺したい」とか「息子を殺したい」とかを訴える人が続出し、講義を受けながら、睡眠薬を何錠飲めば死ねるかという話をしている。今から考えると、私はよく耐えていたものだと思いますが、「何があってもいいのだ」という信念は強く、よほどのこと(実際の犯罪行為)がない限り、放置しておこうと考えていました。

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