瀬戸内寂聴さんがかつて「意見広告」を出した背景 反武力という自分の意思を自分のお金を投じて

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瀬戸内寂聴さんが遺した言葉をお届けします(2014年、撮影:尾形文繁)
昨年11月に逝去された作家の瀬戸内寂聴さん。1987年から2017年まで寂聴さんが編集長を務めた『寂庵だより』から、寂聴さんの随想を収録した書籍がシリーズで発売されました。寂聴さんの飾らない素顔が詰まった第2弾『今日を楽しく生きる 「寂庵だより」2007-1998年より』から、秘書の瀬尾まなほさんの解説も交え、一部抜粋してお届けします(漢数字や送り仮名などは原文の通りにしています)。
瀬戸内寂聴さんが「褒める」を大事にしていた理由(5月13日配信)
晩年の瀬戸内寂聴さんが「出家」に感謝した瞬間(5月3日配信)
瀬戸内寂聴さんが晩年感じた「生きすぎたケジメ」(3月31日配信)
<『今日を楽しく生きる』に収録された 1998~2007年に書かれた先生の随想は私がまだ先生に出会う前である。先生は70歳後半から80代前半でまだバリバリに仕事をしていた。先生の日常や、社会問題、交流のあった作家とのエピソード、そして自分の生い立ちなど、私がまだ知らなかったことも多い。(中略)
変わりゆく時代を、先生の随想から感じることができる。ただ一つ変わらないも の、それは先生の思想である。いつどんな時でも、先生は作家として書き続けるのをやめなかったし、命の尊さを伝え続けてきたのだ。先生がどこにも遠慮せずに想いを書き綴った想いがここにある。 (解説「変わりゆく時代に、変わらない先生の強い想い」瀬尾まなほ)>

意見広告を出して

三月四日、私は、朝日新聞に意見広告を出した。株式欄の下段三段に、それは載り、余白が多く、大きな活字で、目立つ広告になった。

意見広告とは、広辞苑によれば、

「団体あるいは個人が主義・主張を社会に訴える広告」

とある。私はもの書きになって以来、自分の本の広告を、出版社が出してくれるので、新聞の広告欄は、新聞を開くと、まず最初に目を通すくせがついている。

自分では一銭も金を出さないので、

「あの出版社は大きな広告を出してくれるから、よく本が売れる」

「あの社は、ちっとも広告を出してくれないので、売れない」

などと、勝手な文句を言っている。揚句の果てに、今朝の広告の顔写真はみっともない顔などと、フンガイしたりする。どう見たって、それは自分以外の人の顔ではないので、ひとり笑ってしまうのだけれど。

その新聞広告に、初めて自分でお金を出してみて、その高額さを、初めて実感として体得した。自分で支払える上限ぎりぎりがあの大きさであった。

なぜそんなことをしたか。断食に体調の自信がなくなったので、その代りとして自分の反戦の意志を発表するためである。

なぜ、今、自分の意志を発表しなければならないか。仏教徒として、作家として、それはなさねばならぬ義務であると信じるから。

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