池上氏解説「新聞やテレビが報じない」情報の裏側 自身も記者時代に「地獄を見た」裏取りとは

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そして、演説の冒頭でまずこう述べています。

「開かれた民主主義に必要なことは、私たちの政治的決断を透明にし、説明すること。私たちの行動の根拠をできる限り示して、それを伝達することで理解を得られるようにすることです」

つまり政府がどんな専門家の意見を聞き、どんな議論があって、ロックダウンという結論に至ったのか。これまでの経緯、議論の内容をすべて記録に残し、後で検証できるようにするのが民主主義だというわけです。きちんと記録を残し、次に同じようなことが起きたときに生かす。それを徹底するのが民主主義を守る大原則だと思います。もっと言えば、記録というのは歴史の原資料にもなるわけだよね。記録が積み重なって歴史になるでしょう。

それなのに、そもそも記録をしていなかったり、書類を紛失したり、シュレッダーにかけたり……、というのはまさに民主主義の危機だと思います。

人生を変えた「あさま山荘事件」

私はこれまでさまざまなメディアに関わってきました。まずは自己紹介がてら、私がどんなことをしてきたかという話ができればと思います。少しおつきあいください。

私がNHKに入局したのは1973年。あれ? 新聞記者志望だったんじゃないの? という声が聞こえてきそうですね。

そう、「初志貫徹」と言いたいところですが、子どもですからね、『続 地方記者』という本との出合いはあったけれども、中学、高校と成長するうちにいろいろと考え方も変わるわけです。気象庁の予報官もいいな、と思った時期もありました。

ところが就職活動を考え始めた大学3年の終わりころ、昭和史に残る大事件が起きたのです。「あさま山荘事件」です。名前だけは聞いたことがある人もいるかもしれません。日本で武力革命を起こそうとした連合赤軍と名乗るグループが、軽井沢のあさま山荘に立てこもって警察と銃撃戦を展開するという事件です。

※あさま山荘事件
1972年、全国指名手配中の連合赤軍メンバー5人が人質をとって立てこもった事件。9日後に全員逮捕される。NHK と民放5社が警察突入から犯人連行までを中継した。

当時、とくに1968年、69年、70年ごろというのは、日本中でいろんな大学の学園闘争というのがあって、その中から次々に過激派が生まれていきました。中でも「革命を起こすためには資金が必要だ」と考えた「赤軍派」は、銀行強盗をして資金を集めるんです。一方、「武力でこそ革命が起こせるんだ」と考えた「京浜安保共闘」という組織は、銃砲店を襲撃して、銃を手に入れました。

赤軍派と京浜安保共闘は、考え方はまったく違うのに、武器と金があれば〝鬼に金棒〟だと連合組織をつくるのです。これが「連合赤軍」です。

彼らは群馬県の山の中にアジトをつくって、そこで軍事訓練をしていたんですね。総理官邸を襲撃、占拠するのが目的です。そうしたら群馬県警に見つかってしまい、警察から逃れるために山の中を北へ進みます。山を越えたところが長野県の軽井沢。軽井沢にはいろいろな企業の保養所が並んでいて、連合赤軍のメンバーが逃げ込んだのが、河合楽器製作所の保養所「あさま山荘」だったというわけです。

次ページ当時、あさま山荘には
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