池上氏解説「新聞やテレビが報じない」情報の裏側 自身も記者時代に「地獄を見た」裏取りとは

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私が配属されたのは、広島放送局呉通信部でした。何かあったらカメラを持って取材に行く。広島県の呉といえば『仁義なき戦い』という有名な映画があります。広島県の暴力団の抗争事件を扱った実録映画です。抗争は呉から始まり全県に広がっていきました。私が呉にいたころはだいぶおさまっていましたが、何かあるとすぐ暴力団の事件が起きるというところです。暴力団も取材しつつ、ここでも3年間、仕事をしました。

その後は東京の社会部に配属されました。最初の1年間は渋谷警察署詰めで渋谷、世田谷、目黒の3つの区を担当しました。東京都内はとにかく人口が多いでしょう。東京の警察署はいくつかのブロック「方面本部」に分かれていて、渋谷・世田谷・目黒は警視庁第三方面本部の管轄です。第三方面本部の9つの警察署をぐるぐる回るという仕事を1年間担当した後、警視庁捜査第一課と捜査第三課を担当することになりました。

「どんな死体がありましたか?」と聞く毎日

捜査第一課は都内の殺人、強盗、放火、誘拐といった凶悪犯罪の担当です。捜査第三課は窃盗や偽札事件などを捜査します。

毎朝、捜査第一課に行くのですが、その前にまず行くのが鑑識課です。鑑識課には「検視官」という役職の人がいます。変死の疑いのある遺体の検視を行う警察官のことで、死体が出ればまず検視官が現場へ行くんです。

明らかに事件性があるということになれば司法解剖になりますし、病死でも死に際に医師がいなかった場合、念のために調べようとなると行政解剖になります。司法解剖の場合、東京だと東京大学医学部と慶應義塾大学医学部にそれぞれ法医学教室というのがあって、どこでその死体が見つかったかによって東大か慶應へ送られる。行政解剖というと大塚に東京都監察医務院というのがあって、こちらは行政解剖をする。

つまり解剖医にまわすのが仕事ですから、検視官は毎日、変死体を見ているわけです。まずはそこへ行って「どんな死体がありましたか?」と聞く。その後、捜査第一課長のところへ行き、それから捜査第三課長のところへ回るということを、毎朝繰り返しました。

そして殺人事件があれば、犯人を捕まえるための捜査本部ができますね。進捗状況を捜査員から話を聞くことが社会部記者の仕事になります。当然、捜査員は、昼間は聞き込みで忙しいですから、捜査本部に戻って集合するのはだいたい夜の8時ごろ。捜査報告を共有し、明日の捜査方針が決まって帰るのは夜10時ごろになります。記者が取材できるのはその後……。

直帰してくれればいいのですが、だいたい仕事が終わったら食事に行く、あるいは軽くアルコールを入れて終電車で家に帰るわけですね。まだ若い捜査員は都内に家は持てませんから、千葉や埼玉、神奈川あたりに自宅があります。だから帰宅は午前0時半から1時ごろ。その捜査員を毎日、待ち構えるわけです。

次ページ電信柱の陰に隠れてひたすら帰って来るのを待つ
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